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施設入所中の虚弱な心房細動患者に抗凝固しても脳卒中は変わらず出血は増加

まとめると

P(患者):施設入所中の認知症・虚弱な高齢心房細動患者

E(暴露):抗凝固あり
C(対照):抗凝固なし
O(結果):抗凝固ありで全死亡は減るが、脳梗塞は変わらず出血は増加
(余命は76日延長)

なぜこの論文を?

超高齢者に心房細動があるとき、抗凝固療法を開始するべきか非常に迷います。また、これまで元気だった高齢者が徐々にフレイルになっていくにつれ、いつまで抗凝固療法を続けるか、中止して良いものか悩みもあります。

控えめなDOACは害しかなさそうなので、DOACはやるならしっかり効かせるし、やらないならスパッと止めるしかありません。

DOAC少なめにしても出血は減らず、死亡率増加ACP journal clubより。出血などを懸念してDOACを少なめで処方したら安全なのか?の論文紹介。結論は、少なめにしても出血は減らず、総死亡は増えてしまう。交絡因子があるので解釈には注意ですが。...

今回はAmerican geriatrics societyより、心房細動のある認知症・虚弱な高齢者にDOACを投与するべきか?の論文です。NEJM Journal watchに紹介されていました。

NEJM Journal watchより

Differential effect of anticoagulation according to cognitive function and frailty in older patients with atrial fibrillation
https://doi.org/10.1111/jgs.18079

デザイン:コホート研究
セッティング:米国、2013〜2018年(メディケア part Dの情報から)

患者:66歳以上の施設入所中、心房細動のある認知症患者(Cognitive performance scale 5 or 6)
主な除外基準:心臓弁膜症やVTEがある患者
暴露:ワーファリンまたはDOACの使用
対照:抗凝固なし
アウトカム:全死亡(1次)、虚血性脳卒中、重篤な出血(2次)
追跡期間:1年
共変量:年齢、性別、施設入所期間、併存疾患(CHA2DS2-VASc、ATRIA出血リスクスコア、その他の重篤な疾患)、出血リスクに関連する他薬剤、薬の処方数(ポリファーマシー)、脆弱性の指標(ケアの拒否、転落、体重減少、褥瘡など)
解析:多変量解析、inverse probability of treatment (IPT) weights逆確率重み付け

結果

抗凝固を受けている患者は抗凝固なしに比べ、baselineで超高齢者が少なく(90歳以上 28.5%vs37.7%)、抗血小板薬少なく(3.2%vs10.4%)、ホスピス少なく(10.2%vs17.2%)、feeding tube少ない(8.2%vs11.4%)傾向
一方、CHA2DS2-VASc(6.1±1.53 vs 5.9±1.57)、ATRIA出血リスク(5.4±2.50 vs 5.8±2.57)と大きな違いはなし(出血リスクは抗凝固群でやや低い気がしますが)

結果概要:抗凝固ありで全死亡は減るが、脳梗塞は変わらず出血は増加
(余命は76日延長)

批判的?吟味

メディケア part Dとは?

メディケア(Medicare)は米国の公的な医療保険制度の一つで、65歳以上の高齢者や一部の障害者が対象です。Part Dは処方薬をカバーしているので、今回のDOACの処方有無やポリファーマシー、NSAIDsなど他の出血に関わる薬剤の有無がわかります。

この論文は、診療報酬請求データを用いた臨床研究です。なので、クレアチニンの数値やBMIなどはわかりません、たぶん。

inverse probability of treatment (IPT) weightsとは?

propensity score

観察研究では交絡因子をどう排除するかが問題になります。RCTと異なり背景因子や重症度が大きく異るためです。今回のDOACと死亡に関する話題では、feeding tubeで治療されていたり、褥瘡があるような患者はfrailなので、医師はDOACを処方したがらない可能性があります。また、frailな患者は早期に死亡する可能性もあります。

この背景因子や重症度の違いを取り除くために、propensity scoreを使用します。

ロジスティック回帰分析によってアウトカムが発生する確率を推定することができる。同様に治療をアウトカムにすることで、治療を受ける確率を測定された背景要因や重症度から、ロジスティック回帰モデルを用いて推定できる。個々の患者で推定された治療を受ける確率をプロペンシティスコアという。プロペンシティスコアが高いとは、その治療を受ける確率が高いことを意味する。プロペンシティスコアが等しい治療を受けた患者と受けていない患者を集めると、集団では背景要因のバランスが取れるという性質をもち(図1)、この性質を利用して分析を行う。

笹渕祐介(著)「臨床論文のMethodsを読むMethod」 p.74

雑に言えば、プロペンシティが等しければ、背景因子が似通うのでRCTのように比べやすくなる、ということです。非常に雑です。

inverse probability of treatment (IPT) weights

IPTWでは各患者にpropensity scoreの逆数(inverse probability)で重み付けします。これで暴露群と対照群のベースラインの患者特性のバランスがとれるそうです。ちょっと何を言っているかわからなかったので、リンクだけ貼っておきます。

propensity score matchingではスコアがマッチしなかった患者は切り捨てられるようですが、IPTWだとすべての患者データを扱えるそうです。

ATRIA出血リスク

ATRIA出血リスクはあまり聞き慣れません。HAS-BLEDが心房細動患者の出血予測が主流になったため廃れたのでしょうか。

CHA2DS2-VAScやATRIA出血リスクに差が大きくないので、frailな高齢者ではDOAC投与で脳梗塞予防の恩恵は乏しく出血リスクが増えてしまう懸念があります。

そもそも、両群脳梗塞発症率低くない??

抗凝固あり群で1.7%、抗凝固なし群で1.5%の年間脳梗塞発症率でした。CHA2DS2-VASc6点は10%程度の年間脳梗塞発症率なので、このコホートではとても少ないことがわかります。心房細動ありで脳梗塞を発症せずに生き抜いてきた精鋭たちがこのコホートを形成しているなら、一般化は難しいかもしれません(が、日本の高齢者の方も生き抜いているため一般化できるかもしれません)。

↓飯塚病院の工藤先生らのコメント。批判的吟味とこのような所作を指します。かっこいい!

まとめ

日本人は欧米人より梗塞より出血が多いと言われているため、今回の試験結果は日本人では重く受け止めたほうがよいでしょう。CHA2DS2-VAScや出血リスクだけでDOACの開始や継続を決めるのではなく、併存症やfrailityも考慮が必要です。

認知症がある高齢心房細動患者では、抗凝固を行うとより多くの大出血または死亡の関連(HR2.23, 95%CI:1.08-4.61)も指摘されています。

コホート試験は読み慣れておらず間違いがあったらご指摘ください。

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