感染症

薬剤師が退院時抗菌薬処方を支援すると適正使用が増える

最近は多くの病院で抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship)が活動しています。一昔前は、「薬剤師が医師の処方、特に抗菌薬の選択に意見するなどとんでもない!」という風潮でした。私のコンサル先でも、医師が抗菌薬選択に迷ったら医師から薬剤師に相談する雰囲気になっています。時代は大きく変わっています。そんな変化をもっと後押しする研究です。

今回はJAMA Network Openから。

Pharmacist-Driven Transitions of Care Practice Model for Prescribing Oral Antimicrobials at Hospital Discharge

Nicholas J. Mercuro, et al.

JAMA Netw Open. 2022;5(5):e2211331. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.11331

臨床疑問
臨床薬剤師による抗菌薬適正使用支援は、退院時の抗菌薬適正使用の改善と関連するか?

デザイン
非ランダム化stepped-wedgeクラスター試験

P:17の独立した病棟(内科、外科、専門科病棟)に入院していた患者800人
場所:米国、期間:2018/9/1-2019/8/31
I:抗菌薬適正使用チームにトレーニングを受けた臨床薬剤師が加わり、多職種で退院時抗菌薬処方について議論、文書化、オーダー入力を促す(400人)
C:通常の対応(400人)
O:退院時処方がガイドラインなどに準拠し適正化されている割合

結果
患者データ:1440人が組み入れられ、640人(423が複雑性または重症感染症、固形臓器移植後または発熱性好中球減少症102人など)が除外され800人が対象。
適正化割合:介入前36.0%vs介入後81.5%
重篤な副作用:介入前9.0%vs介入後3.2%

トレーニングを受けた臨床薬剤師がASTに加わり積極的に関与することで、抗生剤の適正使用が36→81.5%(NNT3)、CDIなどの重篤な副作用は9%→3.2%(NNT18)と介入により素晴らしい結果が出ています。「積極的に」という内容が大切だと思いますが、

  • 薬剤師トレーニング
  • 多職種での回診し、毎日議論
  • プロトコール実施状況のチェック
  • プロトコールの進捗状況を毎月院内ポスター、会議、電子メールを通じて医師・薬剤師に通知
  • 活動PRポスターにphysician champions(診療の質改善のために働く医師)の顔入り写真掲載

と多岐に渡り、薬剤師だけでなく多職種で質を改善させています。「薬剤師が医師の処方、特に抗菌薬の選択に意見するなどとんでもない!」という風潮を打ち破るための気概が伝わってきます。米国にはphysician championsという診療の質改善のための役職があることにも驚きです。

この研究の舞台になったヘンリー・フォード病院グループは、自動車王ヘンリー・フォードが設立した病院です。ヘンリー・フォードの名言に「事実がたとえわかっていなくとも、とにかく前進することだ。前進し、行動している間に、事実はわかってくるものだ。」というものがあります。頑張っている臨床薬剤師さんがどんどんイノベーションを起こしてくれますように。

今回の研究はstepped-wedgedクラスター試験という手法が取られていました。stepped-wedgedは階段状という意味で、時間を追って介入群を増やしていくので図が階段状に見えることから名付けられたようです(赤線は筆者追記)。

多職種介入は良い結果が出そうなことが分かっているのに、自分の病院が非介入群になることを院長のようなステークホルダーが許可するとは思えません。また、5つの病院でよーいどんと一斉に介入を始めることも現実的ではありません。

stepped-wegedクラスター試験では、段階的に参加する施設が増えるので全ての施設で介入を享受することができますし、開始時期がずれるので準備期間を十分にとれるというメリットがあります。実際に病棟薬剤師が全員トレーニングを受けて多職種チームとして機能するには時間があるので、リアルワールドにあった研究デザインだと勉強になりました。

参考:臨床研究の実践知 [第12回] Stepped WedgeクラスターRCT(医学界新聞)
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2020/PA03361_06

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