I(介入):食塩代替物(塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%)
C(対照):通常の塩(塩化ナトリウム100%)
O(結果):1年あたりの脳卒中減少(NNT222)、全死亡減少(NNT188)
なぜこの論文を?
前回に続いて、雑誌『総合診療』の2022年6月号「総合診療外来に”実装”したい最新エビデンス My Best 3」から名郷先生の紹介論文です。前回の高齢者の厳格な高血圧管理と心血管イベントの論文はNEJMに2021年9月に掲載されたのですが、今回の人口塩分についての論文は同じくNEJMに2021年8月に掲載されています。一月違いで載った高血圧についてのNEJM論文がこんなにも違うのか!と驚きます。
この2つを対比して読ませる名郷先生はさすがです!
今回の論文は食塩の25%をカリウムを用いた食塩代替物に変えると心血管イベントや死亡は減るのか?という論文です。その効果や論文の確からしさを是非比べてみてください。
前回の論文はこちら↓
NEJMより
Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death
B. Neal, et al.
N Engl J Med 2021;385:1067-77.
http://doi.org/10.1056/NEJMoa2105675デザイン:オープンラベル・クラスターランダム化試験
盲検化:割付は隠蔽化。オープンラベル(エンドポイント判定委員会は盲検化)
セッティング:中国5省(河北省、遼寧省、寧夏省、山西省、陝西省)の農村部600村患者:脳卒中の既往または60歳以上、無治療でBP160以上、降圧薬内服でBP140以上
20,995人、年齢中央値65.4歳、女性49.5%
主な除外基準:本人または同居人が食塩代替物に対し禁忌である場合(カリウム保持性利尿薬、既知の重篤なCKD)、6ヶ月以内の予後予測、ほとんど食事を家庭外でとっている介入:
I:食塩代替物(塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%)を1人1日平均20g提供、これまでより塩を控えめにと助言
C:通常通りの食事
両群とも開始時に減塩などの脳卒中予防に関する一般的な健康アドバイスを実施したが、初回のみで以降は実施せず。プライマリエンドポイント:脳卒中
基金:George Institute for Global Health
結果:食塩代替物の使用で1年あたりの脳卒中が率比rate ratio0.86、NNT=222、全死亡が率比rate ratio0.88、NNT=188
批判的?吟味
オープンラベルなんですけど、いいんですか?
この研究では、通常の塩と食塩代替物を比較しています。食塩代替物は味が普通の塩とは少し異なるので、盲検化しても気づかれてしまいそうです。少しでもバイアスを減らすためにエンドポイント判定委員会は盲検化されています。
また、今回のプライマリエンドポイントは脳卒中であり、ハードアウトカムが設定されています。入院と違い、恣意的に判断する内容ではありません。またセカンダリエンドポイントの死亡は盲検化されていなくても、誰にも動かすことのできない項目です。
介入と対照が盲検化しにくいのでオープンラベルにならざるを得ませんが、妥当なデザインと思われます。
25%もカリウムが含まれる食塩代替物は大丈夫?
高カリウム血症の害が懸念されるため、CKDやK保持性利尿薬内服中患者は除外されています。除外された母集団では高カリウム血症の有意な上昇はありません(Figure3-D)。
limitationで血液検査は頻回に測定されていないため、高カリウム血症を見逃しているかも、と指摘しています。しかし頻回の測定が無くても、この結果なら問題がないかもしれません。
食塩代替物ってお高いんじゃないの?
この論文で使われた中国の食塩代替物は1.62ドル/kg、通常の塩は1.08ドル/kgです。なんとリーズナブル!
日本では、味の素やさしおは2044円/kg(amazon調べ)、味の素 瀬戸の本塩は432円/kg(amazon調べ)で円安を考慮しても高い!!ちなみにやさしおは50%減塩でグルタミン酸も入っているので付加価値がありますし、味の素は高級品ですよね。
名郷先生は「今100%塩化ナトリウムの食塩を販売している業者の人に、この結果を届けたい。高血圧の治療をする兼ねた安全な食塩が爆発的に売れて、あっという間に広がるかもしれない。(『総合診療』から引用)」と指摘されていて、もう少し安くなるといいなと感じます。
1日の塩が20g!?
介入群では食塩代替物が1日の20g提供されています。いや、多すぎない? 毎日塩釜作るの? パスタ茹でるの? 中国の農村の生活がどんなものかわかりませんが、日本でもかつて長野県などでは塩分摂取量が多かったので、外的妥当性は慎重に検討が必要です。
前回の厳格な降圧の論文と比べると、脳卒中既往が多く含まれているにしても両群ともStrokeの発症が多いので母集団の差の影響があるかもしれません。
まとめ
前回紹介の論文では、高齢者の厳格な降圧で脳卒中を1年間で500人に1人減らせる結果でした。食塩代替物は脳卒中を1年間で222人に1人減らせます。厳格な降圧では死亡は減りませんが、台所の塩を変えるだけで死亡も減らすことが出来ます。どちらが魅力的な治療でしょうか?
このNEJMを読んだ2021年11月に親に食塩代替物を送った記録がamazon履歴に残っていました。今更ながら「CKDがあると言ってたような・・・セララ®飲んでなかったっけ?」とブログ主は不安になっているので除外基準の確認は大事ですね。