医療の不確実性への許容度の低さは
専門がプライマリ・ケア、信頼できる指導医の不在と関連
許容度の低さはバーンアウトや仕事満足度の低下と関連
なぜこの論文を?
今回は医療の不確実性についてです。一般内科をやっていると、未分化な問題に毎日出会います。患者家族に理不尽に叱責されることもあります。もちろん他の診療科もそうなんでしょうが。
コロナ禍では、コミュニケーションのとり方自体も大きく変わりました。電話や文面でのコミュニケーションが増えました。患者の紹介・退院でも「コロナの既往」があるだけで未だに忌避されることもあります。科学的には感染性がある状態とは到底思えないのに、先方は頑なにコロナ後の患者を拒否されます。予想外の対応はまさに不確実性で、イライラ、モヤモヤが湧き出てきます。
こんな世の中で、不確実性とどう付き合うのか?不確実性を乗り越えるにはどうしたらいいのか?を考えさせてくれる論文です。
医師の不確実性への耐性に関連する要因
Factors Associated with Physician Tolerance of Uncertainty: an Observational Study
Begin AS, et al.
J Gen Intern Med. 2022;37(6):1415-1421.
http://doi.org/10.1007/s11606-021-06776-8デザイン:横断研究
盲検化:非盲検データにアクセス可能なのは1人の分析者のみ。データは厳密に匿名化。回答者の特定や関連付けはできない。
セッティング:The Massachusetts General Physicians Organization (MGPO).マサチューセッツ総合病院医師会、米国、2019年参加者:MGPOの教員2172名
主な除外基準:なさそう暴露因子(E/C):性別、人種、民族、医師経験年数、専門診療科目、信頼できる指導医の有無
結果(O):医師の幸福度指標(例:全体的なキャリア満足度、燃え尽き症候群、耐性)
基金:AHA、MGPO、The Center for Educational Innovation and Scholarship at MGHから一部資金提供。
結論:不確実性への耐性の低さは、性別女性、専門科目がプライマリ・ケア、経験年数、信頼できる指導医の不在と有意に関連していた。不確実性への耐性が低い医師は、燃え尽き症候群の可能性が高く、キャリア満足度が低い。
批判的?吟味
一般的な臨床論文ではないので、批判的吟味に自信はありません。感想みたいなものです。
参加者確保のための苦労
NEJMを発行しているMGHの教員が対象です。参加者は18ページ、30分のオンライン調査で回答しています。回答率は驚異の93%で選択バイアスが少ないです。この手の調査は、調査内容(今回であれば医師のプロフェッショナリズムや不確実性)へ興味がある人が参加しやすく、興味がない人は参加してもらえない傾向がありますが、その心配がありません。
30分かかるオンライン調査にどうやって参加してもらうの?と疑問に思いましたが、調査が完了すると金銭的インセンティブがもらえます(今回の調査だけでないかもしれません)。166.67ドルから833.34ドルという多額な報奨金が払われているので、皆さん協力されているんですね。
天下のMGHの研究ですよね。日本では?
米国でも超有名な病院での研究なので、それが他の施設でも当てはまるか、特に日本の中小病院で当てはまるかは外的妥当性の問題があります。家庭医の地位が確立している米国ですら、プライマリ・ケア医の不確実性への耐性が低いので、日本ではもっと低いと推測されます。若く研修し始めたばかりの専攻医の先生には、信頼できる指導医のケアが重要と言えます。
日本でも先行研究はありますが、2000人を超える規模で様々な診療科の教員に調査しているというのがこの研究のウリですね。
まとめ
コロナ禍前の2019年に行われた研究ですが、不確実性への耐性の高さは幸福度や満足度と関連していました。そして、持つべきものは良い指導医!
今後、コロナの要素が加わると違う視点が得られるかもしれません。また質が高そうな研究があれば紹介したいと思います。