Advanced care planning

虚弱な高齢者の大腿骨近位部骨折を保存的治療してもQOL非劣性

まとめると

P(患者):大腿骨近位部骨折を生じた施設入所中の虚弱な高齢者

I(介入):Shared Decision Making (SDM)後に手術を選択
C(対照):SDM後に非手術を選択
O(結果):非手術は手術に比べQOL非劣性。両群とも治療満足度高い。

なぜこの論文を?

ADLの低下した認知症高齢者の大腿骨近位部骨折に手術をする/しないの選択は難しいものです。併存症のために麻酔・手術が出来ない、あるいは手術をしない選択をしたも場合、その後の出血や疼痛、移動能力の低下などでQOLは大きく下がるイメージを持っています。非専門医が「頚部骨折の手術はしないという方法もありますよ」とはなかなか言い出しにくいものです。かといって余命の幾ばくもない人に手術を勧めてもよいものかとも・・・

今回はJAMA surgeryより、大腿骨近位部骨折の手術する/しないでQOLがどの程度損なわれるか、家族の満足度が異なるか、という論文です。手術/非手術を選択する際にはShared Decision Makingが行われており、非常に丁寧にデザインされています。

虚弱な高齢者の大腿骨近位部骨折、手術?非手術?

Evaluation of Quality of Life After Nonoperative or Operative Management of Proximal Femoral Fractures in Frail Institutionalized Patients: The FRAIL-HIP Study

Sverre A. I. Loggers, et al.
JAMA Surg. 2022 May 1;157(5):424-434.
https://doi.org/10.1001/jamasurg.2022.0089

デザイン:コホート研究
セッティング:オランダの25病院、2018/9〜2020/4

患者:大腿骨近位部骨折患者172名
年齢中央値88歳、男性22%
組入基準:

  • 年齢70歳以上
  • 受傷前に介護施設へ入所中
  • 以下の項目の最低1つ以上
    • BMI<18.5またはカヘキシア
    • 重篤な併存症ASA-PS分類IVまたはV
    • Functional Ambulation Classification (FAC)0-2

除外基準:

  • 転子下骨折
  • 両側大腿骨近位部骨折
  • 人工関節周囲骨折
  • 7日超の診断の遅れ
  • 既知の遠隔転移のある癌
  • 大腿骨近位部骨折が病的骨折と確定
  • 患者または代理人のオランダ語理解が不十分
  • 他の外科手術や薬物療法の臨床試験に参加中

 

介入:両群とも構造化されたShared Decision  Making (SDM)を用いて手術する/しないを決定。SDHは患者、代理人または近親者、医療従事者で手術/非手術のメリット・デメリットを共有・議論した。

I:手術する88名
C:手術しない84名

O(エンドポイント)
プライマリエンドポイント:

  • QOLが非劣性(EQ-5Dの非劣性マージン0.15)。1,2,4週,3,6ヶ月を評価

セカンダリエンドポイント:

  • QUALIDEM(施設入所中の認知症患者のために特化したQOL指標、9項目;ケア関連、ポジティブな感情、ネガティブな感情、落ち着きの無さ、自尊心、社会的関係性、社会的孤立、自宅にいるかのような環境、having something to do)
  • ADL
  • 疼痛レベル
  • 鎮静薬の使用
  • 有害事象
  • 移動能力
  • 死亡率
  • 選択した治療法に対する近親者や介護者の満足度(0不満、10を極めて満足)
  • 死の質(Quality of Dying and Death)の評価(3段階)

基金:オランダ保健研究開発機構からの助成金、Osteosynthesis and Trauma Care Foundation.

結果:SDMに基づく大腿骨近位部骨折に対し非手術群は、手術群に対してQOLは非劣性。両群とも治療満足度は高いと評価(中央値8/10)。

批判的?吟味

結果のまとめ

  • SDMに基づき、手術/非手術を決定
  • SDMには老年医学専門医が55-66%、外傷外科医が60-66%、elderly care(介護職?)が23-53%同席(Table 2)
  • 非手術群は2週間以内に半数以上死亡
  • 手術群は6ヶ月時点で約半数死亡
  • EQ-5D(QOL指標)は6ヶ月まで非劣性
  • 鎮静剤を非手術群は75%、手術群は45%使用(Table 3)

EQ-5Dって?

もともとはヨーロッパで開発されたもので、以下の5項目について5段階で評価します。

  • 移動の程度
  • 身の回りの管理
  • ふだんの活動(例:仕事、勉強、家族・余暇活動)
  • 痛み/不快感
  • 不安/ふさぎ込み

回答は5項目に5段階の評価があるので、5の5乗=3125通りの結果が出ます。この結果を各国の文化などを勘案して、QOLスコアに換算し「完全な健康=1」「死亡=0」で算出されます。EuroQol本部で厳密に管理されているので、各国で独自の追加項目を作成することは許されません。

費用効果分析の学術研究で最も多く使われているのがEQ-5Dです。このQOLスコアを元にQALYが算出されます。(参考:QOL評価の具体的方法等について

意外とシンプルで驚きました。わずか5項目なので、非医療従事者にもわかりやすく、回答者の負担も少ないです。

非劣性マージン0.15は妥当?

QOLがプライマリエンドポイントで、EQ-5Dの0.15ポイント差を非劣性マージンに設定しています。この0.15は先行研究のプロトコールから引用されていましたが、0.15が妥当なのかわかりませんでした。

ただ、手術しなければ移動はできなくなります。EQ-5Dには、移動、身の回りの管理、普段の活動が入っているのでスコアが下がっていることは当然といえば当然です。そして、RCTではなく盲検化されてもいないので、もともとQOLが低かった患者は保存的治療を選びやすくなります。治療選択後に非手術群がQOLが低い理由に選択バイアスの影響がありそうです。

非劣性マージンの妥当な値はわかりませんが、QOLが落ちつつも満足の行く終末期を過ごせる、という論文の結論は臨床上の価値が高いと思います。

QUALIDEMはどこにいった?

施設入所中の認知症高齢者ののためのQOL評価ツール、QUALIDEMがセカンダリエンドポイントに入っていましたが、結果は言及されていません。QUALIDEMはEQ-5Dより高齢者の生活に密着した評価項目になっているので、興味があったのですが残念です。

鎮静剤を非手術群は75%、手術群は45%使用

終末期に非手術群では鎮静剤をしっかり使用されています。なかなか日本ではできないことではないでしょうか?非がん患者で痛みや苦しみを我慢させがちな日本の医療環境とは大きく異なり、看取りの環境が整っているのでしょう。余命の短さ(非手術群は2週間で半数以上死亡)に比べても死のQOLの満足度が高いこととも関連していると思われます。

また非手術群では、SDMの際にelderly careの同席が多い結果でありました。介護職?なのでしょうが、意思決定に大きな役割を果たしていそうです。この点も日本の環境とは異なります。

まとめ

この論文では、予後の厳しいFrailな患者さんの大腿骨近位部骨折に対して、保存的にみることもQOLは悪くはないことを示しています。しかし同様の結果を得るには、手術をする場合でもしない場合でも丁寧にSDMを行うことが求められます。また、非手術の際には適切に鎮静剤を使用し苦痛を取り除きQOLを維持しないといけません。

施設入所中の方が転倒すると「頚部骨折です。では、手術のために整形外科病院へ搬送しますね」と十分な話し合う時間も取れず転院していくことが現状です。少しずつ改善できればよいなと思います。

ASAーPS分類

ASA IV  常に生命を脅かすような重度の全身疾患を持つ患者

例:最近(3ヶ月未満)の心筋梗塞、CVA、TIA、またはCAD/ステント、進行中の心臓虚血または重度の弁機能障害、重度の駆出率低下、ショック、敗血症、DIC、ARDS、または定期的に透析を受けていないESRD

ASA V  手術しなければ生存が見込めない病的な患者

例:腹部・胸部動脈瘤破裂、大量外傷、大量出血を伴う頭蓋内出血、重大な心病変や多臓器・全身機能不全に直面した虚血性腸管など

DeepLで翻訳(https://www.asahq.org/standards-and-guidelines/asa-physical-status-classification-system

Functional Ambulation Classification (FAC)

FAC0:歩行ができない、平行棒のみで歩行する、平行棒以外では安全に歩行するために複数の人の監視または身体的補助を必要とする。

FAC1:転倒防止のため、平らな場所を歩行する際、1人以下の手による接触が必要である。徒手による接触は継続的であり、体重を支えるだけでなく、バランスの維持および/または協調を助けるために必要です。バランスを保つため、および/または協調性を補助するために必要です。

FAC2:転倒防止のため、平らな場所を歩行する際には、一人以上の人の手による接触が必要です。手による接触は、バランスまたは調整を補助するための連続的または断続的な軽い接触である。

FAC3:患者は、他の人の手を借りずに平らな場所を身体的に歩くことができるが、判断力が低下していたり、心臓の状態が疑わしい、あるいはタスクを完了するために言葉による合図が必要であるなどの理由により、安全のために1人以下の人数で待機することが必要である。

DeepLで翻訳(Clinical Gait Assessment in the Neurologically Impaired: Reliability and Meaningfulness

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