I(介入):カテーテルアブレーション
C(対照):薬物療法
O(結果):高齢であるほど、心血管イベントが増える傾向
なぜこの論文を?
心房細動に対して、アブレーション治療を選択することができます。高齢者であっても、心房細動を発症からの期間が短ければ、アブレーションは成功するとの話を聞きます。
ただ、あまり左房拡大が無い症例に出会わないのと、患者さん自身も「アブレーションまでは・・・」と希望されない方が多いです。
今回は、高齢者の心房細動にアブレーションを勧めたほうがいいのか?に答えてくれる論文です。
ACP journal clubより
In AF, CV benefits of catheter ablation vs. medical therapy may vary by age
http://doi.org/10.7326/J22-0042臨床疑問:心房細動のある患者に、カテーテルアブレーションと薬物治療では、罹患率や死亡率への影響は年齢によって異なるのか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(プライマリアウトカム判定者のみ)
セッティング:10カ国、126ヶ所の臨床センター患者:65歳以上または65歳未満で脳卒中の危険因子(高血圧、心不全、脳卒中の既往、糖尿病、その他の心臓疾患)が一つ以上あり、発作性、持続性、または長期の持続性心房細動で治療が必要な2204人
年齢中央値68歳、男性63%
766人が65歳以下、1130人が65〜74歳、308人が75歳以上
主な除外基準:1種類以上の抗不整脈薬による治療失敗、または左房カテーテルアブレーションの既往介入:
I(n=1108):カテーテルアブレーション(肺静脈隔離術含む。経験豊富な医師の判断で補助的な技術も使用)。アブレーション後は3ヶ月以上抗凝固療法を追加。
C(n=1096):薬物療法(まずレートコントロール、失敗すればリズムコントロール)基金:NIH
結果概要:心房細動のある患者に対して、カテーテルアブレーションと薬物療法の心血管イベント発生に対する効果は年齢により異なる。
批判的?吟味
結果のまとめ
プライマリエンドポイントは複合エンドポイントで、中身は
- 死亡
- 後遺症のある脳卒中
- 重篤な出血
- 心停止
で、妥当と思われる内容です。
65歳以下でアブレーション:3.2%、薬物療法:7.8%
65〜74歳以上でアブレーション:7.8%、薬物療法:9.6%
75歳以上でアブレーション:14.8%、薬物療法:9.0%
結果は75歳以上だと、有意差はありませんがイベントが増えています。
心房細動の再発は高齢でも若年でもアブレーションで減少します。
P for interaction=0.134とは?
表の下から2行目に書いてあるP for interactionは交互作用を評価するものです。交互作用とは、ざっくりいうと『治療効果の「ハザード比やオッズ比が、サブグループ間で異なるか」どうか(引用元:臨床医のためのRコマンダーによる医療統計解析マニュアル)』だそうです。
今回のプライマリエンドポイントは65歳以下と75歳以上では逆の結果が出ています。サブグループ間での逆の結果が有意か否か評価するために、P for interactionを使用します。
一般にはp<0.05で交互作用ありと判断されますが、p<0.1もあればほぼ交互作用ありと判断して構わないようです(参考:臨床医のためのRコマンダーによる医療統計解析マニュアル))。
今回は0.134で、交互作用は少しありそう、というところです。
盲検化はプライマリアウトカム判定者のみ
薬物療法とアブレーションを比べているため、患者と担当医を盲検化はすることはできません。
また、プライマリエンドポイントは、
- 死亡
- 後遺症のある脳卒中
- 重篤な出血
- 心停止
の複合アウトカムで、いずれもハード・アウトカムです。この中に「入院」や「胸部不快感」のような患者や医師が恣意的に判断できるものが入っているとバイアスがかかってしまいますが、その心配はありません。
盲検化された判定者が判断することで、予断が入りにくくなっています。
まとめ
アブレーションは年齢によらず、心房細動の再発を防ぐことはできます。しかし、心血管イベントをなどのハードアウトカムの恩恵は若年者のみの可能性があります。
心房細動のある高齢の患者さんにはアブレーションまではあまり勧めなくてもいいのかな、と思いました。逆に65歳以下であれば「アブレーションの説明だけでも聞いてみたら?」と専門病院受診を勧めてみることにします。