I(介入):吸入薬
C(対照):プラセボ
O(結果):呼吸器関連のQOLは改善しない
なぜこの論文を?
喫煙歴があり、咳が出る・痰が出るなどの呼吸器症状がある場合、「COPDだ!」と考えて禁煙指導とともに吸入薬を出してしまいがちです。
呼吸機能検査で異常がない患者さんでも、吸入薬の使用で呼吸器症状の改善は得られるのでしょうか? ACP journal clubからの論文紹介です。
ACP journal clubより
In tobacco smokers with respiratory symptoms, a dual bronchodilator did not reduce symptoms at 12 wk
https://doi.org/10.7326/J22-0103
元論文:N Engl J Med. 2022;387:1173-84.臨床疑問:現在または過去の喫煙歴のある成人で、呼吸器症状があり呼吸機能が保たれている場合、気管支拡張薬2剤併用は効果がどの程度あるか?
デザイン:RCT(RETHIC試験)
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(患者、臨床医、データ収集者)
セッティング:米国の20の医療機関患者:現在または過去の喫煙歴(10pack-y以上)がある40〜80歳の成人535名(年齢中央値59歳、女性51%)
呼吸器症状あり(COPD Assessment Test score≧10)
呼吸機能正常(気管支拡張剤使用後の一秒率≧70%)
主な除外基準:喘息、活動性または最近の肺感染症、気管支拡張剤使用後のFVC<80%、肺疾患の併発介入:1日2回、12週間吸入
I:気管支拡張薬(インダカテロール27.5mcg+グリコピロニウム15.6mcg)(n=261)
C:プラセボ(n=274)基金:National Heart, Lung, and Blood Institute。介入薬とプラセボはNovartis社から提供。
結果概要:現在または過去の喫煙歴のある成人で、呼吸器症状があり呼吸機能が保たれている場合、気管支拡張薬2剤併用はプラセボに対して症状を軽減しなかった。
批判的?吟味
スパイロメトリーは大事
喫煙者が痰や息切れなどの症状があると、まず一番に原因をCOPDに求めてしまいます。厳密にスパイロメトリーを行って、一秒率の低下がないかを厳密に評価することが大切です。
プライマリ・ケアの場面では、喫煙歴のみでCOPD的な「要素」があるとして扱いがちですが、一秒率の低下がない患者には気管支拡張薬の安易な処方は慎まないといけません。
SGRQってなんだったっけ?
毎回、忘れてしまいますが、SGRQは過去にも扱っていました。
St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)はCOPDの疾患特異的な健康関連QOLを評価する尺度です。SGRQは50項目の質問からなり
・Symptoms(症状):咳、痰、喘鳴、呼吸困難といった症状の頻度と程度
・Activity(活動):呼吸困難によって制限される日常生活あるいは呼吸困難を生じさせる日常生活の活動レベル
・Impact(衝撃):COPDにより影響を受ける社会活動や心理的な障害など
上記の3つのスコアを合計して総スコアを求めます。スコアは0〜100で示され、QOLが良いほど小さいです。臨床的に価値があるとされる最小の変化(MCID)は4点とされています。
まとめ
ACP journal clubのコメントでは「家庭医は呼吸機能検査なしでCOPDと診断しがち」と手厳しいコメントがありました。
タバコ吸いで呼吸器症状がある患者さんは、呼吸機能検査で異常がなければ吸入薬の効果を得ることができません。呼吸機能検査を行ってから処方するようにしようと思います。