ACPJC

降圧薬は夜でも昼でもあまり変わらない

まとめると

P(患者):成人高血圧患者

I(介入):夕に降圧薬
C(対照):朝に降圧薬
O(結果):心血管イベントに差は出ず

なぜこの論文を?

2020年に高血圧治療界隈で話題になったことがあります。降圧薬を夜に飲むと、朝に比べて心血管イベントが減るというものでした。RRR43%、NNT19と非常に良好な結果で、飲み忘れさえなければ害がないと思い、飛びついてしまいました。

今回のACP journal clubでは、降圧薬は夜と朝、どちらがいいのかのTIME studyを紹介しています。

ACP journal clubより

In hypertension, evening vs. morning dosing of antihypertensive drugs did not differ for major CV outcomes at 5.2 y
https://doi.org/10.7326/J22-0116
元論文:Lancet. 2022;400:1417-25.

臨床疑問:高血圧のある成人患者が、降圧薬内服のタイミングを夜間にすると、朝方と比べて心血管イベントは改善するか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(アウトカム判定者のみ)
セッティング:英国

患者:18歳以上の1剤以上の降圧薬を飲んでいる高血圧患者21,104人
年齢中央値65歳、男性58%、白人91%
主な除外基準:夜間勤務者または1日複数回の降圧薬内服

介入:降圧薬内服のタイミングを割当

I:夜間群(午後8時から深夜0時、10,503名)
C:朝方群(午前6時から午前10時、10,601名)

基金:英国心臓財団、英国・アイルランド高血圧学会

結果概要:成人の高血圧症患者において、通常の降圧剤の夜間投与と朝方投与は、中央値5.2年後の複合主要心血管アウトカムにおいて差がなかった

批判的?吟味

複合心血管イベントの中身

この研究の主要評価項目は複合アウトカムです。

  • 心血管死
  • 非致死性心筋梗塞・脳卒中による入院

 

降圧薬を朝飲むか夜飲むかを盲検化することは難しいため、患者と臨床医はどちらに割り当てられたか知っています。アウトカム評価者は盲検化されています。恣意的に判断できる「入院」をなぜ評価項目に入れるのか・・・英国ではそう簡単に入院できないのかもしれませんが。

先行研究とずいぶん違う

2020年の論文the Hygia Chronotherapy Trial(Eur. Heart J. 41, 4565–4576 (2020))は心血管イベントがRRR43%、NNT19と非常に優れたものでした。なぜ、今回のTIME試験は結果が異なったのでしょうか?

Eur. Heart J. 41, 4565–4576 (2020)より

違いの一つはthe Hygia Chronotherapy Trialは隠蔽化の有無が明確ではありません。ランダム化が不自然であったかもしれません。単純に偶然誤差かもしれません。偶然誤差は防ぎようがありません。

一つのRCTで示された結果が信頼できるかどうかは定かではなく、メタ分析の結果をみる必要があるという勉強になります。

まとめ

差が出なかった、というのは「効果がない」というわけではなく、有意差を示さなかっただけになります。本当に差がない、効果がないことを示すには、試験逐次解析をメタ分析で行い「これ以上この分野の研究をやっても無駄」と示す必要があります。

重症入院患者の発熱に解熱療法を行っても予後に影響なしACP journal clubより。重症入院患者の発熱に解熱療法を行っても予後に影響はないというメタ分析。試験逐次解析(Trial Sequential Analysis)を行っていて、結果が覆ることはそうそうなさそうです。...

今後、新しい研究がでるかもしれませんが、NNT19のような画期的な数値は出そうにありません。患者さんが飲み忘れにくい時間に処方するというのがよさそうです。

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