ACPJC

安定した中等症市中肺炎に対して、抗菌薬3日間は8日間に対して非劣性

まとめると

P(患者):3日間の抗菌薬投与で改善傾向にある中等症の市中肺炎

I(介入):3日目で抗菌薬終了
C(対照):追加で5日間(合計8日間)の抗菌薬投与継続
O(結果):3日目で中止しても、追加5日に対して非劣性

なぜこの論文を?

感染症の推奨治療期間がどんどん短くなっています。例えば、腎盂腎炎はキノロンであれば1週間投与でも可と言われています。肺炎もこれまでは5〜8日間の比較研究が中心でした。どの疾患でどこまで短くできるかは未知数です。短期間で治療することができれば患者さんへも利益は大きいですし、抗菌薬の有害事象を減らすことができるでしょうが、治療失敗への不安もあります。

中等症市中肺炎に対して抗菌薬を3日間(!)でやめるか、追加でもう5日間投与するか、のRCT(非劣性試験)です。

ACP journal clubより

In moderately severe CAP stable after 3 d of b-lactam, stopping therapy was noninferior to 5 additional d
https://doi.org/10.7326/acpj202108170-087

臨床疑問:3日間の抗菌薬で安定した市中肺炎の入院中患者に対して、抗生剤を3日目で中止することは、追加で5日間抗菌薬投与と比べて非劣性か?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(患者、臨床医、データ収集者、アウトカム判定者、データ解析者、データ安全監視委員会)
セッティング:フランスの16病院

患者:18歳以上の310人
年齢中央値73歳、男性89%
・非ICUへの入院が必要な中等度肺炎
・治療はヨーロッパガイドラインに基づくβラクタム薬単剤投与(アモキシシリン・クラブラン酸、セフトリアキソン、セフォタキシム)
・72時間の治療で臨床的に改善(37.8℃以下、HR<100、RR<24、SpO2≧90%、意識清明)
主な除外基準:重症または複雑性市中肺炎、免疫不全、医療関連肺炎または誤嚥性肺炎疑い、抗菌薬の併用療法を必要とする他の感染症、Legionella(確定または疑い)、細胞内寄生菌

介入
I:抗菌薬中止(プラセボ)157名
C:βラクタム薬5日間継続153名
βラクタム薬はアモキシシリン1000mg+クラブラン酸125mgを1日3回

基金:フランス保健省

最重要項目:市中肺炎で入院し抗菌薬治療3日間で臨床的安定している患者に対して、抗菌薬を中止することは、追加で5日間投与することに比べ非劣性

批判的?吟味

盲検化、ITT解析

ランダム化は適切に行われており、盲検化も6重にされています。アウトカムの「15日後の臨床的改善」は主観的項目です。患者や臨床医だけでなくデータ収集者などに対しても盲検化されていること必須ですが、きちんと行われており質が高いです。

ITT解析も重要です。やっぱり試験を中断したいという申し出があれば、結果は大きく変わってしまいます。ITT解析もなされています。もと論文を読むと、プラセボ群で11名、抗菌薬継続群で10名が除外されています。310名の試験参加者で21名抜けると結果への影響は大きいと思われますが、ITT解析で補われていると考えてよいでしょうか。

死亡率低すぎない?

CURB-65で分類した中等症の死亡率はもっと高めですが、この研究ではプラセボ2%、抗菌薬追加1%とかなり低いです。

1(軽症外来)が3.0%、2(中等症入院)6.1%
(ndian J Chest Dis Allied Sci. Jan-Mar 2010;52(1):9-17.より)

中等症と言いながら、軽症ばっかり選んだんじゃないの?と思ってしまいましたが、「3日間の抗菌薬治療で臨床的に改善」が組入基準になっているので、一般的な中等症患者より予後が良いのは頷けます。

となると実際の患者さんに適応しようとなると、「最初は中等症で入院が必要で、非定型肺炎でもなく臨床的に3日間で改善」とかなり厳しい条件になります。市中肺炎なら3日間で抗菌薬終わっていいんだ!とはなりません。

非劣性マージン

この研究では非劣性マージンはリスク差10%で設定されており、一般的な感染症の非劣性マージンと同等です。先行研究をきちんと調べていませんが、過去の短期間投与のRCTが非劣性試験であると、Biocreepという現症が起きてしまいます。

例えば、昔は14日の抗菌薬投与をしていたのを、非劣性試験で10日間が劣らないことを証明した。次は10日間に対して8日間、今回は8日間に対して3日間で大丈夫と証明した。この間、リスク差10%を3回許容しているので、極端な話、リスク差30%でも「非劣性」と言えてしまいます。

今回の3日対8日間を比べるのに、優越性を示すということは不可能でしょうから仕方のないことです。しかし、今後非劣性試験が繰り返される場合には注意が必要ですし、非劣性マージンのチェックは必須です。

まとめ

中等症の市中肺炎に対して、経過がよければ抗菌薬3日投与は8日間投与に非劣性、という結果でありました。自分の実践としては、入院点滴で7日間投与してしまっています。誤嚥性肺炎の患者さんが多いというのが一番の理由です。いきなり3日までに短縮できなくても内服への変更を早めてもいいかもしれません(今回の論文で言えることではないですが)。

なかなか論文の結果を実践に移すというのは難しいですね。

こちらの記事もおすすめ

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です