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COPD患者に空気清浄機導入すると増悪やレスキュー使用が減少

まとめると

P(患者):元喫煙者のCOPD患者

I(介入):自宅にHEPA/カーボンフィルター空気清浄機2台
C(対照):自宅にフィルターを抜いた空気清浄機2台(シャム)
O(結果):増悪やレスキュー吸入の使用が減少

なぜこの論文を?

禁煙して、吸入薬をきちんと使っているのに、COPDの増悪を繰り返す患者さんがおられます。自宅の空気がきれいならCOPDの増悪が減らせるのでしょうか?

GOLDでは室内空気汚染を減らすために十分な換気、屋内で薪やバイオマスを使った調理しないことを推奨しています。先進国では薪料理はキャンプのときくらいしないので、あまり関係ありません。

自宅に空気清浄機を導入することで、QOLは改善するのか?増悪は減るのか?という論文です。

ACP journal clubより

In former smokers with COPD, HEPA and carbon filter air cleaners improved moderate exacerbations but not QoL
http://doi.org/10.7326/J22-0045

臨床疑問:元喫煙者のCOPD患者にHEPA/カーボンフィルター空気清浄機は呼吸器症状を改善するか?
デザイン:RCT
盲検化:割付隠蔽化は不明。盲検化(患者、治験責任医、アウトカム判定者)
セッティング:報告なし

患者:40歳以上の元喫煙者のCOPD患者(一秒率≤70%, %一秒量<80%)
年齢中央値66歳、女性52%
10パック年以上の喫煙歴、粒子状物質濃度が10mg以上の家に住んでいる

介入:どちらも、寝室と患者が最も使用する部屋にそれぞれ1台設置、連続運転
I:58名、粒子状物質と二酸化窒素を除去するHEPA/カーボンフィルター空気清浄機2台
C:58名、フィルターを除いた空気清浄機2台(シャム)

基金:国立環境衛生科学研究所

結果概要:元喫煙者のCOPD患者に、HEPA/カーボンフィルターの空気清浄機はCOPD健康関連QOLを改善しなかったが、中等度の増悪とレスキュー吸入薬の使用が減少した。

批判的?吟味

割付の隠蔽化(treatment allocation concealment)が不明

この研究は、盲検化はされていますが、隠蔽化がされているかは不明です。盲検化していて、隠蔽化していない、というと意味がわからないですよね。

隠蔽化とは

最近の臨床試験では、コンピューターによる中央割付がされていることが多いです。割付表が公表されていないので隠蔽化と呼ばれます。予算が少ない場合でも、封筒に割付表を入れておいて、新たな試験参加者が現れると封筒を開いて、介入群と対照群のどちらかに割り当てるかを決定します。

この割付表が予め分かっていると、不正が可能です。例えば、次に割り付けられるのが介入群だと分かっていれば、予後が良さそうな患者が現れるまで治験参加を阻止すれば良い成績を残すことが出来ます。

隠蔽化はランダム化する「前」の、割付時に誰にもわからないようにする工夫を指します。

盲検化とは

盲検化はマスキング(masking)とも呼ばれます。割付後に試験参加者がどちらの群に入っているかがわからないようにするのが、盲検化です。よく言われる二重盲検は患者と臨床医がわからないので二重になっています。

外科手術などでは、どうしても患者・臨床医(外科医)がどちらの群に割り当てられているかを知ってしまいます。患者・臨床医が盲検化できない場合でも、アウトカム評価者を盲検化することでバイアスを減らすことが出来ます。

次に解説するシャム(偽)手術で盲検化する方法もありますが、患者への負担が大き過ぎる場合は非倫理的だと考えられてしまいます。

この試験では

本文を読んでいないので不明なのですが、なぜか治療割当についての記載が不明なようです。理由はわかりません。不正をしようと思うと、長く空気清浄機を使いそうな患者や家の環境が悪い患者を治療群に割り当てることが出来てしまいます。どうかはわかりませんが。

sham(シャム)って何?

この研究では、シャムの空気清浄機が対照として使われています。シャムとは「偽」や「擬似的処置」と訳されているようです。

介入群はHEPA/カーボンフィルターを入れて、対照群はフィルターを抜いています。シャムは空気清浄機としては稼働しているように参加者からは見えるが、実際には機能していないので機械のプラセボのようなものです。

昔読んだ論文では、潰瘍性大腸炎に対する血球除去療法の有効性を、シャムカラムを使った比較対照試験で証明していました。指導医に「透析のように負担の大きい治療でシャムカラムを使う試験に参加してくれた患者さんに感謝しないといけない」と言われたのを覚えています。

今回の研究はプライマリエンドポイントがQOLなので、

  • 介入群は空気清浄機使用する
  • 対照群は空気清浄機使用しない

としてしまうと、バイアスが掛かってしまいます。

対照群の患者は「空気清浄機を使っていなかったから発作が起きたんだ!」と考えるかもしれません。シャムの使用は重要です。

SGRQって何?

St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)はCOPDの疾患特異的な健康関連QOLを評価する尺度です。以前出てきたEQ-5Dは一般的尺度によるもので、費用対効果を比べたり、医療政策を決定する際の評価に使用されます。

EQ-5Dで大腿骨近位部骨折の手術/保存的治療を評価した論文紹介↓

虚弱な高齢者の大腿骨近位部骨折を保存的治療してもQOL非劣性大腿骨近位部骨折を生じた施設入所中の虚弱な高齢者に手術をするか?しないか?でQOLの評価をした論文です。治療方針の決定にShared Decision Makingを行うことが満足度のポイント。...

SGRQは50項目の質問からなり

・Symptoms(症状):咳、痰、喘鳴、呼吸困難といった症状の頻度と程度

・Activity(活動):呼吸困難によって制限される日常生活あるいは呼吸困難を生じさせる日常生活の活動レベル

・Impact(衝撃):COPDにより影響を受ける社会活動や心理的な障害など

PMDAの臨床試験成績に関する資料より引用

上記の3つのスコアを合計して総スコアを求めます。スコアは0〜100で示され、QOLが良いほど小さいです。

臨床的に有意な最小の総スコアの変化は4とされている。

西村浩一, COPDにおける呼吸リハビリテーションの健康関連QoLに対する効果
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌(2001, 11巻, 2号, p.239-243)より引用

今回のプライマリエンドポイントのSGRQは有意差が出ませんでした。サンプルサイズが小さかったり、使用時間が少なかったりで検出力が足りなかった可能性を指摘されています。

まとめ

今回の研究では、COPD患者が屋内で空気清浄機を使用すると増悪やレスキュー吸入の使用を減らせるものの、QOLの改善を示すことは出来ませんでした。それでも、きちんと吸入していても増悪を繰り返す患者さんには限界を示した上で、空気清浄機の導入を勧めてみてもいいかもしれません。

SGRQが初耳だったのですが、調べ方が悪いのかなかなか解説資料に出会うことが出来ず歯切れの悪いブログで申し訳ありません。少なくとも、QOL評価には一般的尺度と疾患特異的尺度があるということが分かりました。

いろいろ検索しながら、ふと出会った論文の緒言で

「現代の時世として、疾患に対して治癒や延命だけでなく、患者の管理やケアや満足、生活・健康への影響といった質的概念を重んじ、治療の目標とするようになった」

小賀 徹, 健康関連QOLの概念と評価ーQOLをはかってみよう!
日本呼吸器リハビリテーション学会誌(2019, 29巻, 3号, p.377-380)より引用

とあり、しびれました。「治癒や延命だけでなく、価値観やQOLも!」に大賛成です。ACP journal clubではQOLをアウトカムとした論文がよく取り上げられており、今後も楽しみです。

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