ACPJC

冠動脈疾患を疑う胸痛患者には冠動脈CT?CAG?

まとめると

P(患者):中等度の冠動脈リスクのある胸痛患者

I(介入):冠動脈CTで治療方針決定
C(対照):CAGで治療方針決定
O(結果):3.5年後の心血管イベントは変わらない

なぜこの論文を?

他の領域が得意とは口が避けても言えませんが、循環器領域はニガテ。ずっと近くに優秀な循環器の先生がいる環境だったので、頼り切ってしまっていたのも原因の一つです。

ACSを疑って患者さんを紹介すると、一昔前は心カテ一択でした。しかし、いまでは冠動脈CTで判断されることも多くなっています。冠動脈CTは石灰化が強い患者さんの評価が難しいと聞いたことはありますが、使い分けをよく理解していません。

今回はACP journal clubより、胸痛患者にCAGをするか冠動脈CTをとるか、その結果で心血管イベントや合併症は変わるのか?という論文です。

ACP journal clubより

In intermediate-risk stable chest pain, treatment guided
by initial CT vs. ICA did not differ for MACE at 3.5 y
http://doi.org/10.7326/J22-0047

臨床疑問:胸痛のある冠動脈疾患のリスクが中等度の患者に対し、冠動脈CTまたはCAGを用いた初期診断戦略による治療は主要心血管イベントを減少するか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(アウトカム判定者)
セッティング:欧州16カ国、26施設

患者:30歳以上の安定した胸痛があり、CAGを行うために紹介された、冠動脈疾患の検査前確率が10-60%であった患者3667名
年齢中央値60歳、女性56%
主な除外基準:血液透析、洞調律でない、妊娠

介入
I:冠動脈CT(64スライス)を元に治療方針を決定した1833名
C:初回CAGを元に治療方針を決定決定した1834名
両群とも治療後は紹介元でそれぞれ治療

基金:欧州連合第7次枠組みプログラム、ベルリン保健研究所、コペンハーゲン大学リグホスピタル、英国心臓財団、ラジオミックス優先プログラム、ドイツ研究財団。

結果概要:胸痛のある冠動脈疾患リスクが中等度の患者に対し、冠動脈CTを最初に行い治療方針を決定しても、CAGに比べて中央値3.5年間の主要心血管イベントは差がなかった。

批判的?吟味

一応の批判的吟味

原著を読んでいないのでなんとも言えないですが・・・

modified intention-to-treat (ITT) ?

RCTの質を評価するためにITT解析がされているか否か、は非常に重要です。ITTでは、ランダム化したあとの患者が脱落しようが、コンプライアンス違反があろうが、最初に割り振られた群で解析されます。

例えば、厳しい糖尿病内科の先生Aと緩い糖尿病内科の先生Bがいたとします。厳しいA先生についていく患者さんの平均HbA1c 6.0%です。緩いB先生の患者さんの平均HbA1c 7.0%でした。一見すると、A先生の方がよい治療を提供しているように見えますが、実は厳しさについていけなかった患者さんの多くは、外来通院を止めていました。A先生の外来に残っているのは少数精鋭。

本当にA先生が優れた治療を提供していたかを確認するには、ドロップアウトした人も評価するべきです。このように、最初のグループ分けに入った患者群を厳密に解析するのがITTです。副作用の強い化学療法などでは、ITT解析で実臨床での脱落や有害事象による中止を予見することができます。

modified ITTでは、何かの理由で脱落してしまった患者はデータから除いて解析します。研究資金が企業からの出ているmITTは注意が必要で、結果が拡大解釈される傾向があります(BMJの論文)。

どのようにmodifyされたか原著を読んでおらず分からないのでなんとも言えません。ITTだと対象患者は3667名なのが、mITTで3561名と106名が解析から外されているので解釈は要注意です(本来は原著を読んで論ずるべきで、申し訳ないです)。

Composite Outcome

複合アウトカムですが、心血管死亡+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中なので、生死問わず心筋梗塞+脳卒中の合計がプライマリエンドポイントになっています。この設定は妥当だと思われます。

洞調律以外はなぜ除外?

なんで洞調律以外が除外基準に入っているの?と思ってしまいました。心拍のリズムに同期してCT撮影をしないときれいな画像が取れません。なので心房細動などは除外されています。呼吸が荒い人や脈拍数が多すぎる、喘息などでβブロッカーが使いにくい人も冠動脈CT撮影には向かないです。

透析患者さんは、石灰化が強いため除外されています。

お金の話

中等度のリスクのある胸痛患者の最初の評価がCAGでも冠動脈CTでも、その後の心血管イベントが変わらないというのはインパクトが大きいです。また、当然ですが治療関連の合併症は冠動脈CTが少ないです(NNT=74)。

実際、日本の保険診療で3割負担だと

  • 冠動脈CT:約1万円
  • CAG:約5〜10万円

大きな差があります。その上、検査時間はCTだと準備を含めても十数分で済みます。患者さんの負担が少ないのは良いことですし、医療経済的にも大きな影響を与えます。

まとめ

中等度の冠動脈疾患リスクのある胸痛患者に、最初の検査でCAGをしても冠動脈CTをしても、その後の心血管イベントは変わらない、という結果でした。その上、冠動脈CTでは手技関連の有害事象も少なく、金銭的な負担も少なくすみます。

2020年のISCHEMIA試験では安定狭心症に対して、PCI/CABGでも保存的治療でも予後は変わらないという結果で、議論を巻き起こしました。

今後、CAGの役割、PCIの役割が変わっていくかもしれません。

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