I(介入):3.0g/dlを目標にアルブミン投与
C(対照):標準治療
O(結果):15日目の複合アウトカム(死亡・感染・AKI)は変わらない
なぜこの論文を?
非代償性肝硬変の患者では、合併症としてSBP(特発性細菌性腹膜炎)が生じたり、腹水管理のために大量の腹水穿刺を行うことがあります。このような特定の状況ではアルブミン補充を行うことで、死亡や感染などの予後を改善するとされています。日本では、保険診療上アルブミンを無尽蔵に使うことは許されず、本当はアルブミンをもう少し投与したいのに・・・という場面が多々あります。
アルブミン値に目標を定めて毎日アルブミン静注をおこなうことで予後が改善するか?という論文です。
結果は予想通り、アルブミンをじゃぶじゃぶ補充しても予後は改善しないという結果でしたが・・・
ACP journal clubより
In decompensated cirrhosis, targeted albumin infusions did not improve an in-hospital composite outcome at 15 d
http://doi.org/10.7326/ACPJ202108170-091臨床疑問:非代償性肝硬変の入院患者にアルブミン値を目標に連日投与は、標準治療と比較して感染症・腎機能障害・死亡の複合アウトカムを減少させるか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。非盲検
セッティング:UKのイングランド、スコットランド、ウェールズの35病院患者:18歳以上、778名
年齢中央値54歳、男性71%、アルコール性が90%
非代償性肝硬変の急性合併症で入院となった患者
入院72時間以内に血清Alb3.0g/dl以下
入院予測期間が5日以上
主な除外基準:緩和ケア中、予後8週間以内の巨大肝細胞癌
※778人中51人が治療後30日後にに再度ランダム割付されているが、最初のランダム化の結果のみが報告の対象となっている介入:
I(380名):20%アルブミンを毎日、最長14日間または入院中、血清Albが3.5g/dlを目標に投与
C(397名):標準治療
アルブミン投与量は測定された血清Alb値から決定される1日の投与量の目安に基づいた基金:Health Innovation Challenge Fund.
結果概要:非代償性肝硬変の入院患者に対し,目標値を設定したアルブミン群は,15 日後の感染症,腎機能障害,死亡の院内複合アウトカムについて標準治療と差がなかった
批判的?吟味
プライマリエンドポイントが動いている?
この研究は2016年経過から開始しています。当初はプライマリエンドポイントは感染症、臓器障害、死亡の複合アウトカムでした。しかし、筆者らが行った先行研究の結果で、2018年からは臓器障害の項目を腎障害に変更しています。
腎障害の定義はクレアチニン値が48時間以内にベースラインから50%以上または0.3mg/dl上昇なので、一般的なAKIと同じです。
今回の論文は非盲検化試験なので、試験途中で期待していた結果が出そうになかったので、エンドポイントを動かしたのでは?と批判されても仕方がないと思います。ゴールポストを動かしても結果は変わらなかったのですが、貴重なnegative dataとしてNEJMに掲載されています。
複合アウトカムの問題点
複合アウトアムのよくある問題点は、定義が変更されることです。抄録と本文とで異なっていたり、項目を入れ替えたりで良い結果が出た印象を与えようとします。複合アウトカムの問題点はこちらで指摘されています。
かの有名なバルサルタン問題(論文は撤回されています)の論文では抄録には「a composite of cardiovascular morbidity and mortality」と心血管疾患発症と死亡ともっともらしく書いています。抄録だけ読めばバルサルタンすごい!と騙されてしまいます。
本文を見ると、「hospital admissions for stroke or transient ischaemic attack (neurological deficit persisting for less than 24 hours); myocardial infarction (chest pain, ECG-changes, and biomarkers for myocardial necrosis); admission for congestive heart failure (clinical symptoms including dyspnoea, shortness of breath, and peripheral oedema, together with left ventricular dysfunction by echo- cardiography, according to the guidelines of the American College of Cardiology and American Heart Association [AHA/ACC]); admission because of angina pectoris (diagnosed as ECG changes along with chest discomfort or pain, with documented coronary heart disease according to AHA/ACC guidelines); dissecting aneurysm of the aorta (diagnosed by imaging technique); doubling of serum creatinine; or transition to dialysis」と読むのも嫌になるほどのごちゃまぜアウトカムです。問題点は、TIAや心不全のような客観的ではない指標が入っていること、「入院」という恣意的に判断できる項目を入れていることです。特にJikei Heart Studyはオープンラベル試験なので、対照群を恣意的に入院させて有利な結果を導くこともできます。
糖尿病や高血圧の論文では、「心血管死・心筋梗塞・脳卒中」が複合アウトカムになることが多いです。イベントが少ないと単一のアウトカムでは検出力が足りず有意差が出ないため、致し方がない面もあります。「心血管死・心筋梗塞・脳卒中」の3つの重篤さはまあ納得がいきますが、「感染症・腎障害・死亡」を混ぜて一緒に評価するのは不釣り合いに思います。「血液透析の開始、肝腎移植、死亡」とかなら納得いきますが・・・
まとめ
不可解なプライマリエンドポイントの変更が非常に興味深い論文でした。複合アウトカムの問題点も考えさせてくれました。
臨床への影響はさほどありません。SBP、大量腹水穿刺、肝腎症候群にはアルブミン投与を行うスタンスは変わりありません。「アルブミン値が低いから」を理由にアルブミンを投与すると必要もありません。この論文を機に、保険診療上のアルブミン使用制限が緩和されることも考えられません。いままで通り、粛々と治療をしていきましょう。