I(介入):血管内治療+薬物療法
C(対照):薬物療法
O(結果):神経学的予後良好(NNT6)
なぜこの論文を?
脳梗塞急性期の診療については以下のAntaaのスライドが非常にわかりやすいです。
https://slide.antaa.jp/article/view/f0954c00948b4783
脳梗塞の患者さんに対して、t-PAの適応を考慮する、そのために発症時刻を確認したり専門施設への転院を迅速に進めたりすることは一般的になっています。脳卒中治療ガイドライン[追補2019]では、発症時刻が不明な「朝起きたら脳卒中になっていた(wake-up stroke)患者さん」に対しても、条件を満たせばt-PA投与が可能になりました。条件とは、MRIで
DWIとFLAIRのミスマッチ
- DWIは発症30分程度で画像変化出現
- FLAIRは発症4〜6時間で画像変化出現
があり、おそらく4.5時間以内だろうという症例です。t-PAの適応は一般にも理解しやすく認知度が高いと感じています。
一方で血管内治療の適応はどうでしょうか?血管内治療も6時間の制限がなくなり、最大24時間まで適応が延長されました。ただ、一般医にはなんとなくとっつきにくいイメージを持ってしまっています。そんな中、日本での血管内治療の大規模RCTがACP journal clubで取り上げられていたので紹介します。
ACP journal clubより
In acute stroke with a large ischemic region, endovascular
therapy improved functional status at 90 d
http://doi.org/10.7326/J22-0035臨床疑問:主幹動脈閉塞(large vessel occlusion; LVO)を伴う広範囲の急性期脳梗塞の患者に対して、薬物療法に血管内治療を追加すると臨床経過はよくなるか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(アウトカム判定者、データ解析者、データ安全監視委員会)
セッティング:日本の45病院患者:18歳以上、NIHSS6点以上の急性期脳梗塞
203名年齢平均値76歳、男性56%、NIHSS中央値22
内頚動脈またはMCAのM1segmentの閉塞
NIHSS≧6
ASPECTS 3-5
発症時前mRS 0 or 1
最終未発症時刻6時間以内または6-24時間以内でMRI FLAIRで高信号なし
ランダム化から60分以内に血管内治療可能な見込み
主な除外基準:臨床的に有意なmidline shiftあり。急性脳内出血、高出血リスク介入:
I:血管内治療(stent retriever, aspiration catheter, balloon angioplasty, intracranial stent, carotid arteryから臨床医が選択)+薬物療法
C:薬物療法単独
薬物療法はAHA/ASAのガイドラインに基づき実施基金:美原脳血管障害研究振興基金、日本脳神経血管内治療学会
結果概要:主観動脈閉塞による急性虚血性脳卒中で、虚血領域が広い患者において、内科的治療にEVTを追加すると、90日後の機能が改善する可能性が高くなる
批判的?吟味
ASPECTSって何?
ASPECTSはレンズ核と視床を通る軸位断と,それより約2cm頭側のレンズ核構造が見えなくなった最初の断面の2断面にて,MCA領域を10カ所に区分し,減点法によって病変範囲をスコア化するものである。
初学者でも客観的に想起虚血性変化を評価ができる魅力的な指標です。かつては、CT/DWI初期虚血変化読影トレーニングシステムが使えて、素人内科医(私の読影力はボロボロ)でもトレーニングできていました。しかし、現在公開が終了しています。残念。
一方、このトレーニングシステムを提供していたASIST-JAPANが開発した脳画像解析プログラム PMAneoが医療機器としてリリースされていました。もう、人間が読影する時代は終わりつつあるので、うちの病院でも導入してほしいです。
ASPECTS 3〜5って軽症?重症?
この研究のASPECTSは3〜5ですが、どの程度のものなのでしょうか?ASPECTSは10点満点で減点していきます。ASPECTS 3〜5は虚血領域が大きく、救命可能な脳組織が少ないため、良好な転帰が得られる可能性が低くこれまでの血管内治療のstudyでは除外されたり、数が限定されていたそうです。
厳しい患者さんを対象に、予後を改善させたというのはインパクトがあります。
Outcome指標がmRS 0-3ってどうなの?
modified Rankin Scale(mRS)は社会的不利益と行動の制限を評価します。
治療前mRSが0-1が組入基準で、治療後mRS 0-3が良好なアウトカムとなっています。先行研究ではmRS 2までを良好なアウトカムと設定していたため、従来のものとはやや指標が異なります。
出血のNNHが4で結構な数ですが・・・
たしかに48時間以内の頭蓋内出血がNNH4と少ない数字(=4名にEVTしたら1例出血が増える)になっています。しかし、mRS 0-3やNIHSS≧8を指標にするとNNTはそれぞれ6と5なので、たとえ微小な出血が生じたとしても全体の予後がよいので許容されると思われます。
まとめ
馴染みのない血管内治療について、論文を通じて学ぶことが出来ました。mRS 0-1が組み入れ基準なので、基本的には自立して生活できていることが治療適応になります。ADLがもともと落ちている方が適応になるかはこの論文からは読み取れません(適応外)。
血管内治療の適応は24時間以内まで考慮されるので、適応のある患者さんがいれば積極的に転院搬送を検討していく必要があります。