ACPJC

内部感覚エクスポージャーを含む認知行動療法はIBSに有効(NNT2〜3)

まとめると

P(患者):薬剤抵抗性のIBS患者

I(介入):内部感覚エクスポージャーを含む集団認知行動療法
C(対照):待機者リスト
O(結果):IBSの重症度、QOLが改善(NNT2〜3)

なぜこの論文を?

IBSーDの患者さんに対して、イリボーが使えるようになったときは衝撃的でした。下痢に困っていた患者さんは外出が簡単になり、腹痛も抑えることができて仕事や生活への支障が随分減りました。

IBS-Cというほどではなく、便秘傾向で腹痛の強い患者さんでもイノラスは腹痛を軽減してくれる実感があります。

薬剤は進歩しても、それでもIBS症状に困っている患者さんはまだいます。日誌を付けてみてもらったり、脳と腸の関係を説明してみたりとするものの、効果が乏しいこともあります。助言として「不快な症状が出る状況を避けるようにしましょう」と説明してしまっていたのですが、この論文を読むと適切なアドバイスではないことが分かりました。

ACP journal clubより、内部感覚エクスポージャーや暴露練習を含む認知行動療法がIBSの重症度やQOLを大きく改善させる、という論文です。

ACP journal clubより

In drug-refractory IBS, group CBT with interoceptive exposure improved symptoms and QoL at 13 wk
http://doi.org/10.7326/J22-0054

臨床疑問:薬剤抵抗性の過敏性腸症候群(IBS)患者に対し、内部感覚エクスポージャーを用いた集団認知行動療法(CBT-IE)は症状及びQOLを改善するのか?
デザイン:RCT
盲検化:割付は隠蔽化。盲検化(データ解析者)
セッティング:日本の大学病院

患者:18〜75歳の114名のローマIIIまたはIV分類のIBS基準を満たすIBS患者
年齢中央値40歳、女性63%
3ヶ月以上の薬物療法でもIBS症状重症度スコアが175以上で中等症から重度
主な除外基準:警告症状、コントロールされていない併存する腹部疾患、寛解していない精神疾患、PHQ-9の項目で2点以上の希死念慮、IBSに関連していると思われる構造化精神療法または腹部手術歴の既往

介入:通常のケア(30分のグループ疾病教育セッションと週1回の自己モニタリング日誌)に加え
I:グループCBT-IE(n=54)
C:待機者リスト(n=60)
グループCBT-IEは、
・毎週10回の対面またはオンラインによる90分間のグループセッション
・最終セッションの1ヶ月後に行われるブースターセッション
で構成。セッションはIBSに関する心理教育及び課題に重点を置いて行われた。

CBT-IEの内部感覚エクスポージャーの構成要素は、不快な感覚の原因に繰り返し触れることで、患者が関連する不安を軽減するように指導するものであった。

基金:精神保健岡本記念財団、藤原記念財団、日本学術振興会

結果概要:薬剤抵抗性のIBS患者に対し、通常ケアにグループCBT-IEを追加することで、13週時点で待機者よりもIBS関連症状およびQoLが改善された。

批判的?吟味

IBS-SSS/QOL responder?

IBS-SSSとは

IBS-SSSはIBSの重症度を判定することができ、大きいほど重症で最高が500点です。

The irritable bowel severity scoring system: a simple method of monitoring irritable bowel syndrome and its progressより引用

  • 痛みの程度
  • 過去10日間の痛みがあった日数
  • 腹部膨満の程度
  • 排便習慣への満足度
  • 日常生活への影響

で評価し、日数以外はVASで評価しています。50点以上の減少があれば、「responder」と判断されます。

IBS-QOL

IBS-QOLは34の項目からなる自己回答式の質問指標です。点数は100点満点に換算され、高い点数が良いQOLを示します。14点以上の増加が「responder」と判断されます。

参考:Information Sheet on the Irritable Bowel Syndrome-Quality of Life Measure (IBS-QOL) 

つまり結果は

IBS-SSSは減少し、IBS-QOLは増加しており、良い結果を示しています。また、responderのNNTはそれぞれ3,2と驚異的な結果です!

京都大学の先生がコロナ禍で大変だったでしょうに、書き上げられていることに感動です。

Waitlist、待機者リストって何?

患者に良いであろうことを行う試験の場合、何もしない対照群を設定することは非倫理的といえます。アルコール依存、うつ病、不安症への介入効果を判定する研究では、待機者リストを使用します。

助けを求めている研究参加者に遅れてもケアを提供できるのがメリットです。

stepped-wedgeクラスター試験と似たコンセプトですね。最終的には全員が介入を受けることができます。

薬剤師が退院時抗菌薬処方を支援すると適正使用が増えるトレーニングを受けた薬剤師が退院時抗菌薬処方に関わると適正使用が増え、CDIなどの害が減る、という素晴らしいstepped-wedgedクラスター試験。...

待機者リストの弱点は?

待機者リスト対照デザインは倫理的な問題を軽減しますが、完璧ではありません。介入効果を過大評価する懸念があります。待機リストに入っていると、参加者は介入をうけるまで変化を「待つ」ことが期待されていると認識してしまうようです

せっかくいい治療が待っているのだから、自分で調べて解決しようというのを控えてしまう、ということでしょうか。飲酒に関する研究で、待機者リストに入っているが実は最初から介入を受けることが受けていた、というデザインにしてバイアスを評価した論文もあります(参考:Exploratory randomized controlled trial evaluating the impact of a waiting list control design)。

内部感覚エクスポージャーとは?

この論文の認知行動療法は

  • IBSの心理教育
  • 注意のコントロール
  • 認知的再構築
  • 内部感覚エクスポージャー
  • 暴露練習
  • 再発防止

から構成されています(引用:Supplementary Digital Content 1)。

 内部感覚エクスポージャー(Interoceptive exposure 以下,IE)とは,刺激によって喚起される不快な身体感覚に繰り返し暴露することによって,不適切な症状を消去することを目指す治療法である。

引用:姜 来娜ら、内部感覚エクスポージャー治療の最近の研究動向

内部感覚エクスポージャーは具体例も示されていました。

不快な感覚を引き起こす意図的な曝露を繰り返すことで、不快な感覚に対する不安を感じなくなるように学習する。
例えば、「冷たさは必ず腹痛を引き起こす」と思っている人に、短時間、お腹に氷を当ててもらいます。すると、”冷たさは必ずしも腹痛を引き起こすわけではない “ということを体験するのです。同様に、「腹圧は必ず腹痛を起こす」と思っている人に、しばらくお腹を押してもらう。すると、「腹圧がかかっても腹痛になるとは限らない」ことが体験できる。
このように、役に立たない信念に挑戦することで、認知の再構築が促進されるのです。

引用:Supplementary Digital Content 1

暴露練習は『宇宙兄弟』にも出てきます。月での船外活動中に酸欠で死にそうになったヒビトはパニック障害になってしまいました。

宇宙服を着て訓練するとパニック発作が出てしまうヒビトですが、宇宙服をから程遠い装備「サングラス⇒帽子⇒お面⇒・・・⇒気ぐるみ⇒宇宙服」と徐々に慣らして克服していきます。

(引用:小山宙哉『宇宙兄弟』15巻)

まとめ

内部感覚エクスポージャーを含む認知行動療法がIBSに対し、非常に有用という結果でありました。ResponderのNNTが2〜3は素晴らしいです。きちんと認知行動療法ができれば・・・という点が課題ですが。

内部感覚エクスポージャー自体を知らなかったのですが、外来での患者さんのアドバイスに役立てたいと思いました。

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