I(介入):解熱療法を行う
C(対照):解熱療法を行わない
O(結果):死亡・有害事象に変わりなし
なぜこの論文を?
入院中の患者さんが熱を出すと、とりあえず「解熱しましょう!」とアセトアミノフェンなどが使われます。それでも解熱しないと「先生、解熱しないんです!」と言われます。
熱源が分かっていれば熱だけを恐れる必要はないと思います。また、熱源がわからないまま解熱させて、めでたしめでたしとはいかないので原因検索は必要です。
解熱にこだわると本質を見失ってしまいそうですが、本当に熱をさげること(解熱療法)に意味は無いのか?を問うたメタ分析です。初耳の「試験逐次解析」なるものまで行われていて、この結果が覆ることはほぼないでしょう。
ACP journal clubより
In hospitalized adults with fever, fever therapy does not reduce mortality or serious adverse events
http://doi.org/10.7326/J22-0081臨床疑問:成人の発熱患者で、解熱療法は死亡率や重篤な有害事象を減少させるか?
デザイン:システマティックレビュー、メタ分析(試験逐次解析)
2021年7月までのRCT
あらゆる原因の発熱を有する成人で、解熱療法ありと解熱療法なしを比較し、アウトカムが死亡率や有害事象などであるRCT
対象となった研究:
42件のRCT(n=5140)が組入基準に合致、16件(n=2145)がメタ分析に含まれた。
すべての患者が入院患者。
- 重症が85%、非重症が10%。
- 発熱の原因:感染性(69%)、非感染性(20%)、不明(12%)
解熱療法:
- イブプロフェン、アセトアミノフェン(対プラセボまたは解熱剤なし)
- 静脈カテーテルによる冷却+標準解熱剤療法(対標準解熱剤療法単独)
- 外部冷却(対解熱剤なし)
- 積極的解熱療法(対非積極的解熱療法)
割付の順序についてのバイアスのリスクは低い(ブログ主注:選択バイアスに関係)
基金:Swedish Research Council.
結果概要:発熱を伴う入院中の成人患者に解熱療法を行っても死亡率や有害事象は減少しない
批判的?吟味
試験逐次解析(Trial Sequential Analysis)って何?
こちらのスライドで学びました。
メタアナリシスで出た結果に対して、
これでうち止めとしてよいのか、
それとももっと症例数(研究数)を増やさないと結論が出ないのか
をチェックする方法
RCTでも、メタ分析でも、αエラー・βエラーから逃れることはできません。
αエラー、βエラーってなんだったっけ?
- αエラー:本当は差がないのに、差があるという結果になってしまう。
- βエラー:本当は差があるのに、差がないという結果になってしまう。
αエラーは今回で言えば、「本当は解熱することは良いことがないのに、利益があるという結果になってしまう」ことです。「あわてて」早とちりするのがαエラーですね。
βエラーは「本当は解熱することは利益があるのに、解熱は無意味という結果になってしまう」ことです。「ぼんやり」見逃してしまうのがβエラーです。
αエラーが起こってしまっていると、有意差が出ていても後でメタ分析の対象となる症例数が増えると結果が覆る可能性があります。ここで試験を打ち切ってもいいのか?という疑問が生まれます。またβエラーが起こると、今は有意差がなくてももっと症例数が増えれば、有意差が出てくるのでは?と心配してしまいます。もっと症例を増やさないといけない?と疑心暗鬼です。
そこで、どこまで症例数を増やせば、結果は覆りそうにない!と言えるのかを検討するのが試験逐次解析(Trial Sequential Analysis)です。
元論文をみてみると
Fig3.を見ると、紫色の曲線が右側の黄色い三角形の点線と交わっています。これは十分な症例数があるが、有意差はでない、これ以上の研究は不要であると結論づけることができます。要は、これ以上頑張って症例増やしても意味ないよ、ということですね。
まとめ
結論自体は珍しいものではないですが、85%が重症のメタ分析でも解熱療法は死亡や有害事象について差は認めませんでした。そしておそらくこの結果は覆らない!というところまで言えます。
軽症患者ならなおさらメリットは少ないため、患者さんが不快でなければ無理に解熱する必要はないと考えることができます。
ACP journal clubにも書いてありましたが、蘇生後の低体温療法など明らかに体温低下が有利な病態は除かれていますので、結果の適応には注意してください。