※除外基準は厳密に!
なぜこの論文を?
Antaa slideで新米ID先生の「細菌感染症の治療期間まとめ」がありました。端的にまとめられていて非常に有用!この中で「グラム陰性桿菌菌血症の治療期間が7日間でも良いかも」のスライドで引用されていた文献を読んでみました。
この論文はpros and cons形式で書いてくれているので、今回の記事は批判的?吟味というほどのものではありません。
これまでGNR菌血症はルーチンで14日間抗菌薬投与としていましたが、条件が揃えば7日間でも大丈夫そう。
抗菌薬は短けりゃいいの?
Is shorter always better? The pros and cons of treating Gram-negative bloodstream infections with 7 days of antibiotics
JAC-Antimicrobial Resistance, Volume 4, Issue 3, June 2022
https://doi.org/10.1093/jacamr/dlac058GNR菌血症に対する非劣性試験3つのまとめを元に、治療期間は7日間でよいかどうかをpros and cons形式で検討
prosのまとめ
・UTIでは、血液培養陽性反応予後因子ではない。血培陽性だからといって14日投与する必要はない。
・GNRとS.aureusのような菌の挙動は異なる。臨床的な失敗は再発ではなく、初期の無反応となる(ブログ主注:GNRなら1週間の経過で良ければ再発しない。黄ブ菌は一見良くてもよく再発する、という趣旨)
・3-14日の第3世代セフェム投与で、約半分の患者がセファロスポリン耐性腸内細菌や毒素産生C. difficileのキャリアになってしまうconsのまとめ
・55-69%の症例がUTIによる菌血症。他の感染源が少なすぎる。
・重度の免疫不全、ブドウ糖非発酵GNR(緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニなど)が除外されている
・感染性心内膜炎の疑いなど、複雑な感染源を持つ患者は除外されている
・ICUの重症患者はほぼ除外されてい
・von Dachらの試験は、除外された患者(同意が得られないなどで)が重症な傾向
・Yahavらの試験は、除外された患者613人はADLや認知機能低下の可能性が高い。
・除外された患者のほうが90日後の主要評価項目(ブログ主注:全死亡、再発・膿瘍化・遠隔合併症、再入院・長期入院(14日以上))が多い可能性(D. Yahav、M. Paulからの未発表データ)
・治療期間の短縮で、有害事象・耐性菌の出現・Superinfection重感染の有意な減少はない
批判的?吟味
結局のところ
患者は免疫不全ではなく、UTIが感染源で、膿瘍や結石もなく、普通の腸内細菌が起炎菌で7日目で臨床的に落ち着いていれば7日目で抗菌薬終了しても良さそうです。
逆に望ましくないのは
・免疫不全
・妊娠中
・ブドウ糖非発酵GNR
・複雑性菌血症(IE、骨髄炎、化膿性関節炎、壊死性筋膜炎、前立腺炎、ドレナージ不能、CNS感染、膿胸)
・複数菌発育(消化管穿孔など)
・多剤耐性菌
では最低限14日間治療が望ましくなります。化膿性関節炎など必要に応じて治療期間を延長しましょう。
UTIでくくられますが、前立腺炎も治療期間延長が必要です。
同意できない人たち
本文を読んで非常に良かった!と思う点は「同意できない患者」の存在についてです。認知症がある、ADLが落ちている、代理決定者がいない、という患者はそもそもこの臨床試験に参加できていません。
ブログ主の診療環境だと、超高齢でADL悪い方が多いですので、外的妥当性には注意する必要があるあります。レビューのサマリーを読んだだけだと概要を掴んで分かった気になってしまいました。レビュー著者が原著著者に問い合わせて、未発表データまで確認してくれているので非常にありがたいです。
複合アウトカムの問題点
またまた出会った複合アウトカムの問題点!非劣性試験ですが、アウトカムはもりもり複合でした。Yahav et al.の原著では
・全死亡
・再発
・膿瘍化
・遠隔合併症
・再入院または・長期入院(14日以上)
が複合アウトカムになっています。死亡と長期入院を混ぜても良いんですか!?と驚いてしまいます。これもレビューだけではわからないことでした。自分で臨床試験もしないのに生意気をいってすみません。
複合アウトカムの問題点についてはこちらも参照
まとめ
「スピーチと〇〇は短いほうがいい!乾杯!!」という博多華丸・大吉のネタがありましたが、最近はコンプラ的にダメになってきました。スピーチと抗菌薬は短いほうがいい!が感染症業界の潮流ですね。
典型的なUTIでE. coliやKlebsiellaの菌血症であれば7日間投与も選択肢になりそうです。超高齢者など、RCTに入れてもらえなさそうな患者さん達には慎重に。