ACPJC

IE高リスク患者の侵襲的歯科処置前の抗菌薬投与はIE発症を減少

 

まとめると

P(患者):感染性心内膜炎の高リスク患者

E(暴露):侵襲的な歯科処置
C(対照):非侵襲的な歯科処置
O(結果):感染性心内膜炎発症が増加
※抗菌薬予防投与の効果があるのは高リスク患者のみ

なぜこの論文を?

歯科処置前の抗菌薬予防投与を行うべきか、行うなら誰に対し行うべきか、は定まっていません。特に、IE高リスク患者に対して必要か否かは議論が分かれています。英国では、IE高リスク患者にも予防投与を行わないというガイドラインのようです。

今回のACP journal clubでは、大規模な(約800万人対象)コホート研究で、歯科処置が感染性心内膜炎のリスクを上昇させるのか、抗菌薬予防投与は誰に行うべきなのかを示しています。

ACP journal clubより

In adults, risk for infective endocarditis varied for invasive dental procedures and by antibiotic prophylaxis
http://doi.org/10.7326/J22-0097
元論文:Thornhill MH, Gibson TB, Yoon F, et al.Antibiotic prophylaxis against infective endocarditis before invasive dental procedures.J Am Coll Cardiol. 2022;80:1029-41.

臨床疑問:成人において、侵襲的な歯科処置が感染性心内膜炎のリスクを増加させるか?
デザイン:コホート研究。MarketScanデータベースの医療、歯科、処方箋のリンクデータを使用。歯科処置後、1ヶ月後・4ヶ月後をフォローアップ。
セッティング:米国

参加者:成人7,951,972人(女性54%)。2000年1月~2015年8月に雇用者提供の福利厚生を受け、16ヶ月以上のリンクデータを持つもの。

暴露
・歯科処置の種類(侵襲的処置、ほとんどの修復処置を含む中等度処置、定期検査やX線撮影を含む非侵襲的処置)
・新たな診断または処置に基づいて研究中に増加する可能性のあるIEリスクレベル(AHAガイドラインに基づく。高/中/低/不明)
・抗菌薬予防投与

基金:Delta Dental of Michigan Research CommitteeとRenaissance Health Service Corporation

結果概要

※Extractions→抜歯、Endodontic→歯内治療(歯髄除去とか。根管治療Root canal treatmentが非専門家向け用語?)、Scaling→歯石除去
(高リスク者では,予防的抗菌薬あり対なしは,抜歯後30日のIE関連入院のリスク低減(OR,0.13[CI,0.03~0.34])およびその他の口腔外科処置(OR,0.09 [CI,0.01~0.35])と関連、予防的抗菌薬は中等度または低リスク/未知リスク者におけるIE減少とは関連なし)

批判的?吟味

何が新しいのか?

2022年のコクランレビューでも、歯科処置に対する抗菌薬予防投与は感染性心内膜炎の発症率に有意な影響を及ばさないと考えられていました。

英国では、NICE勧告で歯科処置前の抗菌薬予防投与は中止され、実際の抗菌薬処方件数が激減しました。予防的抗菌薬投与を行わない方針にして5年経過すると、わずかではあるが統計学的に有意なIE発症数の増加がみられたそうです。

英国以外の欧州、米国ではIE高リスク患者にのみ、予防的抗菌薬投与が推奨されました。その結果、IEは増えないか減少している、という経過がでました。

この結果を以て、英国の方針(すべて中止)が間違いで、英国以外の国の方針(高リスクのみ投与)が正しかったというのは難しいそうです。ガイドラインの遵守率が高いわけではないなどの理由があります。

上記の経過を経て日循の感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドラインでは、高リスク患者に対する予防的抗菌薬投与を強く勧められていました。

今回のコホート研究を受けてUpToDateの内容も更新されており、弁置換後やIE既往などの高リスク群には予防的抗菌薬使用推奨と記載されています(以前がどうだったかは知りません。AHAはもともと推奨)。


UpToDate(2022年12月30日アクセス)

MarcketScanとは?

コホート情報のもとになったMarcketScanはIBM社が提供している、大規模なデータベースです。いわゆるビッグデータというものでしょうか。米国2億6500万人のレセプト情報や検査結果などが匿名化されて提供されるようです。

https://www.ibm.com/jp-ja/products/marketscan-research-databases

IBMは一昔前はパソコンを作る会社のイメージでしたが、今ではすっかり変わっています。

歯石除去

Scaling(歯石除去)では感染性心内膜炎のリスクは増えないようです。自分自身、歯石除去を受けているので大丈夫?と思いましたが心配ありません。抜歯以上の処置をするときにはIEハイリスク患者には注意が必要です。

まとめ

日本での診療方針にはあまり変わりないですが、英国での方針には影響を及ぼすかもしれません。エビデンスが出ても、それが日常診療に浸透するには時間がかかるものです。

歯科処置前の予防的抗菌薬投与は無効とは言えない

IEの高リスク患者は予防的抗菌薬の適応

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