ACPJC

高齢者へのフェインジェクト静注はアナフィラキシーの頻度が少ない

まとめると

P(患者):65歳以上の患者

E(暴露):フェインジェクト静注は
C(対照):スクロース鉄(ベノファ)静注に比べて
O(結果):アナフィラキシーの頻度が少ない

なぜこの論文を?

鉄欠乏性貧血の患者さんに、鉄剤を処方しますが消化器症状で継続できないことが多いです。そこで、静注をするわけですが、何度も通ってもらうのが難しかったり、何度も針をさすのが嫌がられたり、で続けられないこともあります。若い女性ではルート確保が厳しかったりします。

また、一昔前の情報では鉄剤でアナフィラキシーが一定数起こるのでは?という懸念がありました。

今回はACP journal clubより、どの静注鉄剤がアナフィラキシーのリスクが低いか、の話題です。

ACP journal clubより

In older adults, iron dextran and ferumoxytol each had higher anaphylaxis risk at ≤1 d than iron sucrose
http://doi.org/10.7326/J22-0053

臨床疑問:高齢者に対し、異なる鉄剤の静脈内投与は、初回投与後のアナフィラキシーの頻度はどれくらい違うか?
デザイン:メディケアデータベースの保険請求データによるコホート研究
セッティング:米国

患者:65歳以上の初めて鉄剤静注する患者(2013/7-2018/12)
167,925人(年齢中央値78歳、女性64%)
少なくとも1年以内に鉄剤静注をしていない
主な除外基準:マネージドケアに1年前から加入していない患者、末期腎不全、HIV、アナフィラキシーの既往、過去30日以内にESA製剤使用

暴露因子:初回の鉄剤静注(デキストラン鉄、ferumoxytol、グルコン酸鉄、カルボキシマルトース鉄、スクロース鉄)

基金:外部資金なし

結果概要:高齢者では、デキストラン鉄とferumoxytolの初回投与は、スクロース鉄に対して投与後1日以内でのアナフィラキシーリスクの上昇とそれぞれ関連していた。アナフィラキシーリスクは、すべての鉄剤の静脈内投与で低かった(0.8~9.8例)

批判的?吟味

登場した鉄剤の種類

スクロース鉄と比較して、デキストラン鉄、ferumoxytol、グルコン酸鉄、カルボシキマルトース鉄のアナフィラキシーの頻度を比べています。鉄剤の一般名を並べても商品名が全く思い浮かばないので、まとめると・・・

  • スクロース鉄:ベノファ(日本未承認)
  • デキストラン鉄:インフェンド(日本未承認)
  • ferumoxytol:カナダFeraheme、カナダ以外Rienso(日本未承認)
  • グルコン酸鉄:Ferrlecit(日本未承認)
  • カルボキシマルトース鉄:フェインジェクト(2020年日本承認)

 

と、日本で使えるのはフェインジェクトのみです。いつも使っているフェジンは、SFeO含糖酸化鉄で海外ではあまり使われていないのでしょうか?UpToDateのIntravenous (IV) iron products (use in adults)をみてもフェジンは載っていません。

母集団

一般外来で鉄剤内服できなくて困るのは若い女性=月経中の方です。消化管出血などで一時的に鉄欠乏になったとしても、入院中に点滴で補充してしまえばあまり困りません。透析中の方は、透析時に鉄剤の静注するのが一般的です。

今回のは研究は母集団はなぜか高齢者でなので、若い女性や成長期の未成年に当てはめることができるかは不明です。高齢者であれば、フェインジェクトが1000回に1回以下で安全に使用可能と言えます。

フェインジェクトってどう使うの?

フェインジェクトは2020年から使用可能になっていますが、ブログ主はまだ使ったことがありません。1回500mgの製剤です。

添付文書から引用

使用方法は上記のようにシンプルで、60kgくらいの患者さんなら週1回、2〜3週で鉄剤の補充ができます。フェジンが1V 40mgしかないことに比べると、1回で投与できる量が多いのがいいですね。

じゃあ、どんどん鉄欠乏性貧血の患者さんに使えるか?というと2つ問題があります。

厚生労働省の通達

厚生労働省からの通達では

① 本製剤の効能・効果に関連する注意において、「本剤は経口鉄剤の投与が困難又は不適当な場合に限り使用すること。」とされているので、使用に当たっては十分留意すること。

② 本製剤は、原則として血中Hb値が8.0g/dL未満の患者に投与することとし、血中Hb値が8.0g/dL以上の場合は、手術前等早期に高用量の鉄補充が必要であって、含糖酸化鉄による治療で対応できない患者にのみ投与すること。 なお、本製剤投与前の血中Hb値及び血中 Hb値が8.0g/dL以上の場合は本製剤の投与が必要と判断した理由を診療報酬明細書に記載すること。

と厳しい条件です。添付文書でHb10.0g/dl以上の使い方も記載してあるので、うっかり処方すると査定されてしまいます。一般外来で使うとすると、現実的にはHb8以下の貧血があるときですね。

フェジンと比べ5倍くらい薬価が違う

  • フェジン40mg:90円(鉄1gあたり  2.25円)
  • フェインジェクト500mg:5959円(鉄1gあたり 11.9円)

と薬価が大きく異なります(2022年8月調べ)。上記の通達と合わせると、使用場面は限られます。消化器症状で内服できない、でも忙しくて注射のためだけには通院できないという高度な鉄欠乏患者さんが適応になりそうですね。

今回のコホート試験には出てきませんでしたが、Ferric derisomaltoseのモノヴァーは1回1000mgですが、まだ薬価がついていません。

まとめ

比較対象となるスクロール鉄:ベノファが日本で使用していないのでなんとも言えないのですが、フェインジェクトは安全に使用可能なようです。

フェインジェクトは1回で投与できる量が多く通院頻度を減らすことができるのがメリットです。しかし、保険上の縛りに注意が必要です。

Hb8以下で忙しい患者さんには使っていこうかな、と思いました。

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