ACPJC

血清Crと尿中Albで、人種情報無しでCKDの予後予測可能

まとめると

P(患者):CKD患者

E(暴露):年齢、性別、eGFR、尿Alb/Crの4つの変数を用いたKFRE
C(対照):人種を考慮したCKD-EPI式
O(結果):KRFEがより正確に2年後の末期腎不全を予測

なぜこの論文を?

CKD-EPI式を用いると、推定GFRを求めることができます。推定GFRのみで、将来の末期腎不全を予測することができます。

もともとCKD-EPI式には黒人か否かという項目がありましたが。黒人患者のほうが白人患者より15くらいeGFRが高く出るように補正される問題が指摘されました。もともとのコホート研究の時点でデータが適切に収集されていなかったという問題点と、もはや人種は生物学的な問題ではなく、社会的な問題であるという考えも影響しています(参考:wiredの記事)。eGFRの計算に人種が不要ではないか?と2つの2021年のNEJMの論文()で指摘されました。

これらの論文では、人種差を考慮せずクレアチニンのみからeGFRを算出すると正確ではないのでは?シスタチンCを使用したほうがよいのでは?と主張しています。

今回のACP journal clubは血清クレアチニン値と尿中アルブミン値があればを、人種情報なしで正確に末期腎不全の予測ができるか?という論文です。

ACP journal clubより

In CKD, the Kidney Failure Risk Equation predicted 2-y risk for ESKD better than eGFR alone
http://doi.org/10.7326/J22-0022

臨床疑問:CKD患者において、5つのCKD-EPI方程式と4変数の方程式(KFRE)は、2年後の末期腎不全をどの程度予測するか?これらのモデルの精度は、黒人患者と非黒人患者で異なるか?
デザイン:the prospective Chronic Renal Insufficiency Cohort Studyのデータに基づくコホート研究
セッティング:米国の7つの臨床センター

患者:3873名、21-74歳
年齢中央値58歳、男性55%、非黒人58名
軽症から中等症のCKD(eGFR20-70)、1回以上のフォローアップデータあり
主な除外基準:透析中、免疫抑制剤内服中、固形がん移植の既往または予定、肝硬変、HIV感染、多発性嚢胞腎、腎細胞癌

予測式の説明
5つのCKD-EPI方程式:年齢、性別、血清クレアチニン、血清シスタチンC、人種(黒人か非黒人か)を用いてeGFRを算出するもの
4変数のKFRE:年齢、性別、eGFR(CKD-EPI方程式で算出)、尿中Alb/Cr

基金:NIH

結果概要:CKD患者で、KFREは黒人・非黒人ともにeGFR単独よりも2年後の末期腎不全リスクをよく予測した。

批判的?吟味

5つのCKD-EPIって?KFREって?

CKD-EPIはいくつか種類があり、2009年のものが上記表の一番上でCreaを用いてeGFRを算出します。その他にもシスタチンCを利用したものも考案されています。下2つの2021年のものがNEJMの2つの論文()によるものです。

4つの変数を用いたKFREとは年齢、性別、eGFR、尿Alb/Crで計算します。eGFRはそれぞれ比較対象としたCKD-EPIを元に計算しています。

尿Alb/Cr(と尿TP/Cr)はCKD stage分類でも用いられているので、予測精度は上がって当然です。この論文の売りは、人種情報がなくても予測精度は高いことを示した点です。社会問題を色濃く反映しているのでしょうが、ポリコレ的な意味ではなく科学的に正しく修正されることは望ましいことだと考えます。

KFREを紹介しているサイトはとてもスタイリッシュなことに驚きました。視覚的にわかりやすい作りになっていて、血圧管理やACE-Iの使用で透析導入の確率をどれくらい下げられるかが一目瞭然で、患者さんへの説明にも使えそうです(英語でさえなければ・・・)。

出典:https://kidneyfailurerisk.com/

 

IDIって何?

表の右端にIDIという項目があります。IDIはIntegrated discrimination improvement(統合識別改善度)で、既存の予測モデルに新しいパラメーターを加えた場合に予後予測がどれくらい優れるかを示したものです(参考)。

よく使われるC統計量とIDIの違いについて調べてみました(参考)が、よく理解できませんでしたが、直感的にわかりやすい指標のようです。

まとめ

この研究自体は日本での診療に大きな影響を与えません。実はKFREを日本語で調べてもさっぱり検索出来なかったので関心が少ないのだと思われます。日本では人種を意識障害して診療する機会が乏しいからですね。人種問題が医療に大きな影響を及ぼし、科学論文が政治論争の火種にもなってしまう米国は非常に興味深いです。今後、移民が増えたりすれば、人種で本当に医学的な予後が変わるのか、という関心も高まってきそうです。

(もうすぐ6月25日、マイケル・ジャクソンの命日です)

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