ACPJC

QALYやICERで考える膝OAに対する理学療法の効果

まとめると

膝OAに関して、理学療法はステロイド関注に対するICERが35527ドル
↑さっぱりわからないので、QALY(質調整生存年)やICER(増分費用効果費)の解説です

なぜこの論文を?

もう、このACP journal clubのタイトルを見た時点で、なんのことかさっぱりわかりませんでした。incremental cost-effectiveness ratioもQALYが何の話題かも理解できません。かろうじて$マークがあるので、お金の話?とは思いましたが、限界です。

ということで、まずはACP journal clubを引用しつつ、続いてICERとQALYについて解説していきます。

ACP journal clubより

In knee OA, PT vs. glucocorticoid injections had an incremental cost-effectiveness ratio of $35 527/QALY gained
https://doi.org/10.7326/J22-0034

臨床疑問:膝変形性関節症(OA)患者に対して、理学療法はステロイド関節注射に比べて費用対効果はどうか?
デザイン:RCT(N Engl J Med. 2020;382:1420-9.)の計画外の二次的な経済分析
セッティング:米国の2つの軍人病院

患者:156名(年齢中央値56歳、男性52%)
American college of Rheumatologyの変形性膝関節症の臨床およびレントゲン写真の基準を満たしたもの

介入
I(PT:理学療法群):78名
4〜6週間かけて最大8回のPTセッション、必要に応じて4ヶ月目と9ヶ月目に1〜3回のセッションを追加
※理学療法士の手技のあと、患者自身でエクササイズを強化
C(ステロイド関節注射群):78名
最初にトリアムシノロンアセトニド1ml+1%リドカイン7mlを片側または両側膝に関節注射。手技はリウマチ科医または整形外科医が実施。必要に応じて4ヶ月目と9ヶ月目に追加。

基金:国防総省臨床リハビリテーション医学研究プログラム、ユニフォームド・サービス大学。

結果概要:膝OAに関して、理学療法はステロイド関注に対するICER(増分費用効果費)が35527ドル

 

批判的?吟味

QALY(質調整生存年)やICER(増分費用効果費)って?

医薬品の費用対効果は、「効果」をQALY(クオリー、Quality-adjusted life years=質調整生存年)で評価します。QALYとは、QOL(Quality of life=生活の質)と生存年をあわせて評価するための指標。完全な健康状態を「1」、死亡を「ゼロ」としてQOLを数値化し、そこに生存年を掛けて算出します。費用対効果評価では、このQALYが高いほど「効果が高い」ということになります。
出典:Answers News(https://answers.ten-navi.com/newsplus/15326/)

QALYは要はQOLと生存年を掛け算したものです。10年間完全に健康であればQALYは10であり、10年間健康状態が0.1であれQALYは1とされます。病気ではイメージしにくいので、かえるとうさぎの人生を比べてみましょう。

かえるとうさぎの人生からQALYを考える

かえるは若くして起業して大成功を収めました。金遣いは荒いものの、幸せの絶頂!しかし、事業の失敗、離婚による多額の慰謝料負担で、酒に走り晩年は体調不良でした。

うさぎは満員電車が我が人生、足も踏まれりゃ頭も下げて、と仕事は大変でした。趣味は読書と筋トレの節約家で休日は家族と穏やかな人生を過ごしました。仕事はつらかったですが家庭は癒やしの場でありました。

ICERを計算する

極端な例ですが、かえる、うさぎのQALYはそれぞれ17.5、15で、かえるのほうが優れていました(自分はうさぎのほうがいいと思いますが)。このQALYの差分2.5を獲得するための金銭的な効率を見るものがICER(incremental cost-effectiveness ratio:増分費用効果費)です。

かえるの生涯生活費は3000万円×30年で9億円、うさぎは300万円×30年で9000万円です。QALY2.5を獲得するために、かえるは8.1億円余分に支出しています。ICERは、QALY1を獲得するために必要な費用なので、この場合は3.24億円になります。

問題はこの3.24億円が高いかどうかです。人によっては安いと思うかもしれないし、高いと思うかもしれません。自分であれば人生のICERは「100万円ではコスパが良すぎと思うし1億は割にあわんなー。1000万くらいならいいかな」と感じます。

薬価改定の場面では

薬価改定の場面では近年、ICERは免疫チェックポイント阻害薬など高額になっている薬剤の価格設定に導入されつつあります。ICERはどのくらいを目安に高い、安いが決まっているのでしょうか?中医協の資料「試行的導入における価格調整のあり方について 」では、ICER500万円以下のものは価格を引き上げ、ICER1000万円以上のものは価格を引き下げとされています。


試行的導入における価格調整のあり方についてより

500万円、1000万円が基準になっているのは、イギリスの制度を参考にしているようです(本当は受諾確率曲線なども見ているようですが理解がいまいちなので割愛)。

膝OAの話に戻ると

ここまでを踏まえてACP journal clubに戻りましょう。QALYはPTが0.76、ステロイド関注が0.69でした。通院費なども含めた治療関連コストの差は2145ドルです、ICERは

ICER:2145÷(0.76-0.69)=35,527ドル

と計算されます。うーん、1ドル130円で計算すると、約450万円で結構な額ですね。ちなみに、米国は医療費がバグっているので、医療費がかなり高めです。米国では10万ドルが「支払ってもいい」と思う基準のため、安価である、という解釈になるようです。

直感的には、日本ではもっとお安いんじゃないの?、と思うので日本の研究があれば読んでみたいです。

まとめ

勉強しているうちに、いまもお世話になっている元上司のいまもお世話になり続けている恩師の先生に内科専門医のセルフトレーニング問題の相談を受けたときにあった話題!と思い出しました。内科医にもコスト効果の視点は大事ですね。内科学会雑誌の特集でも過去にありました。

膝OAは命に関わる病気ではありませんが、日常生活には大きく影響します。QOLとコスパについて研究した論文は非常に興味深いものでした。

アイキャッチ画像のドーラ一家は「これっぽっち」と言いながらとても幸せそうです。幸せを評価するのは難しいですが、非常に大事な視点ですね。

こちらの記事もおすすめ

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です