I(介入):各種スタチンの種類/用量
C(対照):プラセボ
O(結果):non-HDL-Cを十分に下げるのは中・高強度のロスバスタチン、高強度のシンバスタチン・アトルバスタチン
なぜこの論文を?
健康診断結果の項目で「non-HDL-コレステロール」という項目を目にしました。脂質異常症の治療ではLDL-コレステロールが最も大切、と思っていたのですが、そうでもないようです。
英国では、心血管リスク低減の主要目標として、LDL-Cの代わりにnon-HDL-Cを用いることを推奨しているようで、それすら知りませんでした。米国も追従する可能性もあるようです。理由の一つにLDL-Cの測定方法の問題があります。
- 直接法:LDL-Cを直接測定する
- 間接法:LDL-C=T-CholーTG/5ーHDL-C(riedewaldの式)
直接法はLDL−Cを直接測定するのですが、2010年頃に検査が不正確であると指摘されて、間接法が推奨された時期があります。
現在は直接法の精度は問題ありませんが、多くの検査室では間接法が用いられています。間接法では、TG≧400の場合には空腹時採血が必要になったりと、正確に評価できないことがあります。つまりTGが多いと、LDL-Cを過小評価することになります。
今回のACP journal clubはどのスタチンがnon-HDL-Cを減らすか、というネットワークメタ分析です。
ACP journal clubより
In diabetes, some statins reduce non–HDL-C better than others vs. placebo
http://doi.org/10.7326/J22-0051臨床疑問:心血管リスクのある糖尿病患者に対し、各種スタチンはどの程度non-HDL-Cを低下させるか?
デザイン:2021年12月までの英語のRCT
対象患者は糖尿病+心血管リスクあり、18歳以上
一次予防または二次予防でスタチンを使用(アトルバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)
対象となった研究:
42のRCT(N-20,193、年齢中央値60歳)
二次予防:32RCT、一次予防:9RCT、不明:1RCT
19のRCTはバイアスリスク低い、10のRCTは何らかの懸念あり、12のRCTはバイアスのリスク高い基金:英国国立衛生研究所プライマリーケア研究所の学校。
結果概要:糖尿病患者において、中等度および高強度のロスバスタチン、高強度のシンバスタチンおよびアトルバスタチンは、プラセボと比較して他のスタチンよりnon-HDL-Cを良好に減少させる
批判的?吟味
結果のまとめ
non-HDL-Cを下げる効果が高かったのは、プラセボに対し
- 中等度および高強度のロスバスタチン
- 高強度のシンバスタチン
- 高強度のアトルバスタチン
でした。
結果自体はあまり目新しいものではありません。日本では高強度のシンバスタチン、アトルバスタチンは保険で通りません。使うとしたらロスバスタチン(クレストール)10mgが中等度です。家族性高コレステロール血症の病名があればロスバスタチン20mgが高強度として使えます。
non-HDL-Cを目標にする日が来るのか?
non-HDL-Cで評価するようになれば、空腹時採血が不要になります。検査項目もT-CholとHDL-Cだけで済めば項目も減らすことができます。
もしガイドラインなどが変更になると、医療関係者だけでなく、患者さんも混乱してしまいそう・・・LDL-C=悪玉コレステロールは患者さんにも分かりやすかったのですが、説明に工夫が必要そうです。
ネットワークメタアナリシスを詳しく
過去の記事でもネットワークメタアナリシスを解説していますが、詳しくみていきます。
ネットワークメタアナリシスとは?
通常はA薬対B薬、B薬対C薬という2つの薬剤を比較した研究をデザインします。AとBを比べ、BとCを比べてはいますが、AとCを直接比較したわけではありません。
例えば、身長の比較を例に考えてみましょう。太郎が次郎より10cm背が高い、次郎が三郎より5cm背が高いとします。太郎と三郎は直接比較していませんが、太郎が15cm高いことは予測できるでしょう。
ネットワークメタアナリシスでは、直接比較が出来なくても、薬剤毎の比較をもとに効果の差を推定しています。
今回の元文献では
図は下記から引用
上の図では、薬の種類・用量ごとに比較したものが線で結ばれています。丸の大きさは、試験参加者の人数を、線の太さは比較した試験の数を示しています。丸が大きければ試験の規模が大きい、線が太ければ試験の数が多いです。
例えば、アトルバスタチンの中等量の丸がプラセボに次いで大きいので、プラセボやアトルバスタチン中等量と比較した研究の規模(患者数が多い)が大きい事がわかります。また、試験数は「アトルバスタチン中等量 VS 高強度」「プラセボ VS シンバスタチン中等度」が多いことも分かります。
プラセボを基準に考えると、ピタバスタチン中等度やアトルバスタチン低強度との直接比較はありません。この部分はネットワークメタアナリシスで推定されます。直接比較がなくても推定することができるのがネットワークメタアナリシスのメリットです。
リーグ戦のような表でtriangle tableと呼ばれます。オレンジ色部分が直接比較で出した結果(direct pairwise meta-analysis)で、緑色がネットワークメタアナリシスで推定された部分です。オレンジ色の部分にNDがたくさんありますが、NDはno direct evidence availableで直接比較がないことを示しています。
プラセボと各種薬剤・量の比較をみたい場合には、緑色の一番下の段を確認すればよいです。ACP journal clubを読めば、このような面倒な解釈を自分でしなくて済みますが、ざっくり知っておくと便利かもしれません。
まとめ
スタチンの種類・用量でnon-HDL-Cがどれくらい減少するかを比較した論文でした。
今後、脂質異常症の治療効果の指標にLDL-Cからnon-HDL-Cに変わっていくかもしれないですね。