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遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン(RZV)接種でGBSがわずかに増える

まとめると

遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン(RZV)接種とGuillain-Barré症候群の関係
P(患者):65歳以上の高齢者

E(暴露):RZV接種後42日まで
C(対照):RZV接種後43-183日まで
O(結果):100万回に3回、GBSの過剰リスクが増える

なぜこの論文を?

コロナ禍で帯状疱疹が増えている、という話をよく聞きます。コロナワクチンのせいで帯状疱疹が増えた、という解釈もあります。一方、ワクチン自体の問題というよりはマスクをして生活していることで、帯状疱疹ウイルスに暴露される機会が減ってしまったという説もあり、こちらの方がブログ主は受け入れやすく感じます。人口の大半が接種している状況だとワクチンとの因果関係を推測するのは困難です。症例対照研究を行おうにも非接種者が極端に少ないとバイアスの原因になります。

今回は、遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン(RZV:recombinant zoster vaccine、シングリックス®)の投与でGuillain-Barré症候群が増えるかどうか、という論文です。ワクチンでの有害事象をどう評価したらいいのか?も学ぶことができました。

ACP journal clubより

In older adults, use of a recombinant zoster vaccine was associated with Guillain-Barré syndrome
http://doi.org/10.7326/J22-0010

臨床疑問:65歳以上の高齢者にRZV接種はGuillain-Barré症候群の発症と関連するか?
デザイン:メディケア請求データベースのデータを利用。ワクチン接種者のリスク期間とコントロール期間を比較した自己対照研究
セッティング:米国

患者:1回以上RZVを接種したメディケア加入中65歳以上の849,397人
年齢中央値75歳、女性58%
主な除外基準:維持透析、介護施設入所、ホスピス入所、RZV接種1回目の6ヶ月前までにGuillain-Barré症候群発症、添付文書と異なる量のRZV接種

暴露因子:1回または2回のRZV接種。リスクウインドウは接種後1〜42日間、コントロールウインドウはどちらかの投与後43〜183日間(または2回目の接種完了、試験終了、登録解除、死亡まで)とした。2つの期間を評価対象とした。主期間:2017年10月〜2019年3月、延長期間:2017年10月〜2020年2月。

基金:米国FDA、メディケア&メディケイドサービズセンター

結果概要:65歳以上に対するRZV接種は、わずかながらGuillain-Barré症候群のリスクを上昇させる

批判的?吟味

Self-controlled study designs(自己対照研究デザイン)って?

さっそく、Self-controlled study designs(自己対照研究デザイン)で躓きました(参考)。自己対照研究デザインは、同一人物内の異なる時間枠を比較します。

この研究内では、

  • リスクウインドウ:RZV接種後1〜42日間
  • コントロールウインドウ:RZV接種後43〜183日間

と期間を定めました。リスクウインドウに生じたGBSはRZVに関連あり、コントロールウインドウに生じたGBSはRZVに関連なし、と解釈します。

ワクチン打った直後のGBSは関係あるけど、1ヶ月半経過したものはワクチンと因果関係はないでしょう、と仮定しているわけです。時間軸でイベント発生を比較するので、対照群に別の患者をおかない点が特徴的です。

Self-controlled study designsのメリットは、時間の経過とともに変化しない交絡因子(性別、遺伝、運動や喫煙のような健康習慣)を無視できることです。例えば、症例対照研究であれば、鶏肉の生食が趣味でキャンピロバクター感染しやすい人が参加してしまうと結果に大きな影響を与えてしまいます(本当かは知りませんがイメージ的に)。Self-controlled study designsは個人の嗜好は普遍である前提なので、「生食」の有無を観察因子に入れていなくてもバイアスの排除をしなくても解析ができます。

もと文献のJAMA internal medicineが読めないため他の研究(帯状疱疹罹患後にGBSが増えるかを検討)の図を引用します。

Hum Vaccin Immunother. 2021 Dec 2;17(12):5304-5310.

この論文ではリスクウインドウを1-42日、コントロールウインドウを100-365日で設定して、帯状疱疹罹患後にGBSが増えるかを検討しました。結果は65歳以上で率比rate ratio4.1と増加していました。

具体的にどれくらいGBSは増えるの?

過剰リスクが100万回接種あたり3例増加します。少ない数字ではありますが、無視はできません。ただ、帯状疱疹後疼痛の悲惨さを考えると、このリスクをとって接種したほうが利益が多いと考えます。具体的な数字があると患者さんにも説明しやすいです。

GBSの診断は非常に難しいものです。鑑別診断のなかに想起されていないと、まず診断することはできません。RZV接種後の方が脱力などの主訴で来院した場合は鑑別に上げておきたいです。

まとめ

RZV接種でGBSがわずかながら増える可能性がありますが、RZVのメリットのほうが大きいと言えます。両親にも勧めます。

冒頭のコロナワクチンで帯状疱疹が増えるか?ですが、症例対照研究(J Eur Acad Dermatol Venereol.)がありました。コロナワクチンで帯状疱疹が僅かに増えると結論付けています。きちんと読めていないですが年齢と性はマッチさせていますが他の要因は調整されていないようです。もしSelf-controlled study designsの論文が出たら非常に興味深いですね!

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