ACPJC

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に甲状腺ホルモン補充しても抑鬱は変わらない

まとめると

P(患者):潜在性甲状腺機能低下症の高齢者

I(介入):レボサイロキシンを補充
C(対照):プラセボ
O(結果):12ヶ月後の抑鬱リスクは変わらない

なぜこの論文を?

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対して、チラーヂン補充を行っても甲状腺機能低下に関連した症状、QOLは改善しないという結果が2017年のTRUST studyで示されています。それでは抑うつ症状については、どうか?という試験が今回の論文です。

冒頭からancillary studyという聞き慣れない用語が出てきましたがこれは何でしょうか?

ACP journal clubより

In older adults with subclinical hypothyroidism,
levothyroxine therapy did not reduce depressive symptoms at 12 mo
https://doi.org/10.7326/acpj202107200-081

臨床疑問:高齢の潜在性甲状腺機能低下症の患者に対し、レボサイロキシン補充は抑うつ症状のリスクを減らすか?
デザイン:RCT(TRUST study)の補助研究ancillary study
盲検化:治療割付は隠蔽化。盲検化(患者、臨床医、データ解析者)
セッティング:オランダ、スイスの3つの臨床センター

患者:472名、65歳以上
年齢中央値75歳、女性56%
持続的潜在性甲状腺機能低下症(TSH 4.6-19.99、2回以上3ヶ月間隔で測定、fT4は正常範囲)
主な除外基準:レボサイロキシン、抗甲状腺薬、アミオダロン、リチウム内服中。最近のACS、心筋炎、膵炎、重大疾患での入院、終末期

介入
I:236名。レボサイロキシンの用量調整経口剤50μg/日(体重50kg未満またはACS既往では25μg/日)から開始し、TSHが基準値になるように調整
C:236名。プラセボ

基金:欧州連合FP7、スイス国立科学財団

結果概要:高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対して、レボサイロキシン補充は12ヶ月目の抑うつ症状を減少しない

批判的?吟味

盲検化といいながら、TSHを見ながらレボサイロキシンの量はどうやって調整するの?

通常、レボサイロキシンの用量調整はTSHを確認しながら行います。臨床医はプラセボかもしれないのにどうやって薬の調整するの?と疑問に思いました。元論文を読むと、患者も臨床医もTSHの結果を知らず、中央から指示された薬剤を投与する形になっていました。

補助研究ancillary studyって何?

NIHによると、補助研究ancillary studyは

補助研究とは、親研究のサンプルまたはデータを使用して、親研究の本来の範囲を超えた科学的分野の知識を拡張する独立した研究プロジェクトである。補助研究は、追加のデータまたはサンプル収集を必要とする場合がありますが、親研究の主要な目的を妨げることはできません。
出典:https://www.niaid.nih.gov/grants-contracts/ancillary-studies-definitionsをdeepLで翻訳

とありました。RCTで得られたデータを再利用するようなイメージでしょうか。ただ、事前に計画した解析ではないため、もとのTRUSTというRCT(N Engl J Med 2017; 376:2534-2544)と同等の信頼性を持っていると考えてよいのか疑問です。2017年に出たデータを2020年に検証し直しているので、前向き研究とも言えないのでは・・・と思いますがどうなんでしょうか。post-hoc analysisとの違いもよくわかりませんでした。

脱落があって、感度分析をされていますが・・・

もともとのTRUST studyは当時としては初の潜在性甲状腺機能低下症に対する大規模RCTでよくデザインされたものでした。それでも、当時の主要評価項目ではなかったうつ病のスコアGDSは完全に得られているわけではなく、今回の研究ではデータの脱落がありました。

感度分析とは、もし欠落したデータが結論に不利なものだったら?有利なものだったら?とパラメーターを変えて結論が覆されるかどうかを分析します。今回はGDS-15のスコア欠損がすべて75%高いと仮定したシナリオ、プラセボ群でGDS-15のスコアの欠損がある参加者全員が最大15点(もっともうつ症状が重症)で、治療群が0点のシナリオも検討されました。しかし、結果は覆りませんでした。

ancillary studyを行って、欠落したデータに感度分析を行って・・・と大変そうです。

まとめ

高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対して、抑うつ症状発症を改善させるためだけに甲状腺ホルモンを処方すべきではない、と言えます。重度の抑うつ症状が改善するかはまだ未知ですが、潜在性甲状腺機能低下症=補充とするべきではありません。

こちらの記事もおすすめ

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です